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気ままに生活してるシニアの残日録

映画「METオペラ魔笛」を観る

2023年07月15日 | オペラ・バレエ

近くの映画館でMETオペラ・ライブビューイング本年度最終回の「魔笛」を観てきた。3,700円。今日は平日、初日で、40人くらいは来ていたか。多い方だろう。女性陣が多かった。

指揮:ナタリー・シュトゥッツマン
演出:サイモン・マクバーニー

出演:
エリン・モーリー(パミーナ、ソプラノ)
ローレンス・ブラウンリー(タミーノ、テノール)
トーマス・オーリマンス(パパゲーノ、バリトン)
キャスリン・ルイック(夜の女王、ソプラノ)
スティーヴン・ミリング(ザラストロ、バス)

上映時間:3時間28分(休憩1回)
MET上演日:2023年6月3日

鑑賞した感想を述べれば、とにかく素晴らしかったの一言だ。元々、「魔笛」は素晴らしいオペラだが、今回は演出、色彩、歌手、指揮者・オーケストラなどすべてよかった。その上で、具体的に感じたことを書いてみたい。

  • 演出のサイモン・マクバーニー(65、英)は「既成概念を覆すような驚きを舞台で表現する演劇界の鬼才」とあるが、今までに見たこともないような斬新な演出だった。
  • 例えば、オーケストラピットの両脇の観客が見えるところに、一方では、ヴィジュアル・アーティストのB・ヘイグマンが舞台のスクリーンに映し出す影絵、黒板と文字、その他の映像の制作をやり、もう片方には効果音アーティストのR・サリヴァンがいろんな音(水の音、酒瓶がぶつかる音、鳥が飛ぶ音など)を出す。
  • パパゲーノが出てきたときに、しばしば黒い服を着た人たち(多分合唱団のメンバー)が鳥を模してA4サイズくらいの白い紙を二つ折りにして片手で持ってパタパタさせる演出はまるで歌舞伎で役者の周りを蝶が飛ぶときの演出と似ていたし、観客席には2つの通路が歌舞伎の花道のように使われ歌手たちが何回かその通路を使って舞台に上がったり降りたりしていた、また、オーケストラピットの観客側にピットを囲むように通路ができていてそこを歌手が歌いながら通る場面があったが、いずれも他では観たことがない演出である。もし、歌舞伎からヒントを得ていたとしたらうれしいが。
  • サイモン・マクバーニーはインタビューで、このオペラが初演されていた頃の演出をイメージしたと言っていた。その一つはオーケストラピットが通常よりも上げ底になっており舞台との一体感が強い設定になっていることだ。指揮者のナタリー・シュトゥッツマンもこれは非常に緊張を強いられると言っていた。
  • 魔笛ほどフルート等の独奏者が活躍するオペラも少ないだろう、フルート奏者のS・モリスは歌手に導かれて舞台に上がり独奏していたし、グロッケンシュピール奏者のB・ワゴーンも舞台上で演奏しており非常によかった。
  • パミーナ役のエリン・モーリーは先日見た「ばらの騎士」(こちら参照)でゾフィーを演じていたあの彼女だ。今回は主役級の役であり、その歌唱力、美貌、スタイルの良さを十分に発揮していた。こんな三拍子そろったパミーナ役は初めて観た。薄幸の主人公、例えば椿姫のヴィオレッタやラ・ボエームのミミなどは彼女がピッタリの役ではなかろうか。
  • パパゲーノ役のトーマス・オーリマンスはインタビューで、ピアノも弾けることを話していたが、第2幕の最後に近いところで通常はB・ワゴーンがグロッケン・シュピールを弾くところオーリマンスが自ら弾いていた、これは本当に彼が弾いていたのだろう、うまいもんだ。ワゴーンも感心しているように見えたのでこれはアドリブか?
  • 夜の女王のキャスリン・ルイックはカーテン・コールで盛大な拍手を受けていた。今まで見た女王の中ではかなり変った出で立ちであったが、歌唱力は素晴らしかった。
  • もう1人、これは良いと思ったのがザラストロ役のスティーヴン・ミリング(58、デンマーク)だ、体格もザラストロらしいし、何より低音のバスの音量が素晴らしかった。これだけのバス歌手はあまりいないのではないか。
  • 最初から幕は開いたまま、最後も閉じなかった、たまにこういうやり方もあるか。

さて、素晴らしいオペラであったが、若干の気づき事項を書いておこう

  • 私の中で理想の魔笛の演奏は、宇野功芳先生推薦のカール・ベーム指揮、ベルリン・フィルの1964年録音の「魔笛」(POCG-3846/7)だ、この演奏に比べると他の演奏はすべてテンポが速い、と言うよりベームの演奏が遅いと言った方が良いかもしれないが。大部分のパートは気になるほどの差ではないが、第1幕、第2幕のフィナーレの演奏が顕著な差である。なぜ、ここまで早く演奏しなければいけないのかわからない。歌手もオーケストラも大変だし、一番盛り上がるところはじっくりと演奏してもらいたい。
  • 3人の童子であるが、その出で立ちが、あばら骨が見え、毛が白髪のボサボサで、まるで飢餓寸前の児童といった感じのコスチュームで気味悪かったが、この狙いが読めなかった。

4時間近くの大作だが全く退屈しなかった。オペラファン、モーツアルトファンであれば見逃せない映画だろう。