近くのシネコンで映画「落下の解剖学」を観てきた。2023年、仏、監督ジュスティーヌ・トリエ(46、仏)、原題:Anatomie d'une chute(仏語、転倒の解剖学:Google翻訳)、152分。今日はプレミアムスクリーンの部屋、ゆったりとして好きだ、幅広い年代の人が来て満席近かった、シニア料金1,300円。女性監督による史上3作目の第76回カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作。
私は以前、ハリウッド映画を中心に観てきたが10年前くらいからそれに飽きてきて、物足りなさを感じてきて欧州映画を観るようになった、とりわけフランス映画を中心にドイツ映画、イギリス映画、イタリア映画などを主に観ている。もちろんアメリカ映画も良いものがあれば観る。今回上映中のフランス映画の新作があるのを知ったので観たくなった。
人里離れた雪山の山荘で、視覚障害をもつ11歳の少年が血を流して倒れていたフランス人の父親を発見し、悲鳴を聞いたドイツ人作家の母親サンドラ(サンドラ・ヒュラー)が救助を要請するが、父親はすでに息絶えていた。当初は転落死と思われたが、その死には不審な点も多く、前日に夫婦ゲンカをしていたことなどから、妻のサンドラに夫殺しの疑いがかけられていく。
裁判の過程で、唯一の証人である息子が傍聴し、証人として証言する中で、仲むつまじいと思われていた家族像とは裏腹の、夫婦のあいだに隠された確執や衝突が露わになっていく。それは聞くに堪えない内容だった、特に子供にとっては。
夫は教師の仕事をしながら作家の夢を捨てきれない、不慮の事故で息子を視覚障害者にしてしまったことについて妻から非難され責任を感じる、山荘を宿泊施設にリフォームする目論見もうまくいかず、精神的に不安定になることもあった、一方、妻は売れっ子作家、その妻から家事や子供の面倒を押し付けられていると感じる夫、それゆえ作家の仕事がはかどらないとイラつく夫、国籍が違う夫婦のため、家庭内の共通言語を英語にするが、妻はバイセクシャルで浮気をしている。そんな中で夫の転落事故が起こった・・・・
物語の前半にこの家族をめぐるいろんな状況について伏線のように描写される、映画を観ていくとどうも妻の方が分が悪いように思えてくるが、妻を支えるのは一回も裁判で勝訴したことがない弁護士ヴァンサン・レンツィ(スワン・アルロー)、彼が法廷では結構頑張る。その裁判の様子がこの物語のクライマックス、そこで検察側証人が転落前日に夫婦の間に起った大げんかの様子を録音した証拠を提出、これが子供や傍聴人が聞く中で流されると・・・
この映画で示される夫婦の諍い、喧嘩、確執はどの夫婦でもありそうな内容である。しかし、そのようなことは普通人前では話さないし、子供に全部聞かれることもない、それが衆人環視の裁判で明らかになるショックは大きい。そして裁判で最後は・・・・(ネタバレのため省略)
久しぶりにフランス映画らしい良い映画を観た。制作に莫大な費用をかけていないだろうが内容的にかなり考えさせられる映画であり、映画とはこういう風に作るものだと思うような映画であろう。そして、結末がまたいい、ハッピーエンドではなく、韻を含むものである。
この映画は裁判が一つの山場となっている。日本人やマスコミは、刑事裁判は真実を明らかにするものだと思っている人も多いが、必ずしもそうではない。裁判は、真相解明を目的とするが、原告、被告双方から出された証拠に基づいていずれに理があるか裁判官が決める制度である。被告が人を殺したのが真実でも原告が証拠を示せなければ無罪となるのが裁判である。その点でこの映画の裁判の判決も真実をはっきり映画の中で示さないため、スッキリしないグレーなもので、観る人になんだかもやもや感が残る、そこがヨーロッパらしい。
さて、この映画では冒頭のサンドラと取材に来た女学生の会話シーン、バカでかい音量の音楽、何とも言えない哀愁を帯びた、どこかアルゼンチンかメキシコかそっちの方の音楽かなと思うメロディーが流れる。帰宅してから調べてみると、ドイツのスティールパン・バンドBacau Rhythm & Steel Bandによる『P.I.M.P.』だ。『P.I.M.P.』は元々、アメリカのラッパー、俳優、プロデューサー、起業家の50セントの曲で、Bacau Rhythm & Steel Bandがカバーしているようだ。
Bacao Rhythm & Steel Band - PIMP
良い映画でした。