イギリスの作家、ジョゼフ・コンラッドの代表作「闇の奥(黒原敏行訳)」(1902年出版)を読んでみた。私の見ているYouTube番組でこの本のことが話題に出て、興味を持ったからだ。Amazonで探して、Kindleで購入して読んでみた。
作者のコンラッドは、ウクライナで生まれ、両親はポーランド貴族。父は国家独立運動の志士だったがロシアの官憲の手に落ち、一家全員シベリア流刑の末、両親は病没し、孤児となりポーランドに住む叔父に引き取られる。16才で商港マルセイユに行き、以後20年、英仏船の船員として世界の海に出る。やがて船長になり、イギリス国籍も取得し、コンゴ行きを思い立ち出発する、コンゴで受けた衝撃は大きく、その後作家となる。
本書は、この著者自らのコンゴ行きの体験をベースにした小説である。それが描くものはその政治性、倫理性、芸術性のいずれにおいても、発刊後100年以上たっても賛否両論、評価が分かれるという。この「闇の奥」が描いたものは、ベルギー王国によるコンゴの植民地支配、象牙収奪のための搾取と大虐殺であるが、さらに、出版当時のイギリスにおける黒人や奥地を商品として消費する態度でもある。その両方の罪を問うていると、本書の解説では述べている。
主人公の船員マーロウ(著者コンラッドの投影)は仲間たちに昔の自分のコンゴ行きの経験談を話し出すところから物語は始まる。ベルギーの貿易会社に縁故があり船長として入社し、船でコンゴに行く。奥地にある会社の出張所を目指してコンゴ河を徐々に遡上する。そして、出張所に到着すると、鎖につながれた瀕死の黒人、柵の杭のてっぺんに突き刺された黒人の頭などを目撃する。そしてそこにいた1人のロシア人青年に、ここからさらに奥地に代理人のクルツという人物がいることを知らされる。彼が現地人から崇拝されていること、会社に象牙販売により莫大な利益をもたらしており、また、本部の指示に反し、自分でも象牙を販売して財産を得ていると聞かされる。マーロウはクルツに会ってみようとするが彼は病気になっていた、話をして彼が何者か確かめるが、最後に「怖ろしい、怖ろしい(The horror、The horror)」という言葉を残して死んでしまう。
この小説は映画化された、フランシス・コッポラ監督、マーロン・ブランド主演の「地獄の黙示録」(2001年、米)だ。映画では舞台がコンゴではなく、ベトナム戦争当時のカンボジア奥地となっている。ただ、映画の方は本とは違った脈絡で描かれているように思う、すなわち、ベトナム戦争の馬鹿らしさ、戦争の狂気といったもの、だから映画は本を参考にしているが本とは別物と考えた方が良いと思うがどうだろうか。
コンラッドを読むのは初めてのため、彼の評価はよく知らない。ただ、この小説は、読んでいて次をどんどん読み進めたくなるような小説ではない。単調で面白みがないし、退屈だと感じた。ネットでこの本の解説や読み方などの記事を見ると、登場人物の一人一人が持つ特徴などがクルツの特徴をそれぞれ表しているとか、ストーリーはワーグナーの「ニーベルングの指輪」を別の形で表してたものだとか書いてある。そのような深読みは1回読んだくらいではわからないし、そもそも私は「ニーベルングの指輪」を詳しく知らないので、単調で面白みの無い小説としか評価できない。今後、地獄の黙示録やニーベルングの指輪などの理解も深めた上で、再読してみたいと思う。
さて、ヨーロッパの国々であるが、アフリカや中東、アジア、南米など世界中で長い間ひどいことをしてきたものだ。本書はその一つの例であろう。一人の人間として許せない思いだ。こういうことこそ、侵略の歴史として学校教育でしっかり教えるべきだし、そういった国家と日本がどう付き合って行くべきなのか考えていきたい。