今年の紅葉は時期も色も良くない。昨日の記事でそう書いた。今日の写真は山形県酒田市の山居倉庫である。こちらは欅なので、色づきは例年とそう変わらないのかもしれない。だが来るのが遅すぎた。もう二日前(平日なので無理だ)に来れば、もう少し美しい「黄色」を見れただろう。
ところで、黄色い葉を見ると思い出すことがある。遥か昔、僕が十代の時の話だ。恥ずかしながら大学受験に失敗した僕は、静岡から単身上京した。代々木上原で四畳半のアパートを借り、千駄ヶ谷(と代々木の中間)にある予備校に毎日通った。貧乏生活だったけど、明確な目標があるので、特に困ることもなかった。その予備校生活の秋、僕は自分の真ん前の席の女の子とよく喋るようになった。貧乏かつ受験生なので、色恋沙汰にはならかったけど、一緒に帰るようになった。本当のことをいえば、僕は代々木上原から南新宿まで小田急線で通っていた。彼女はどこに住んでいたか忘れたが、千駄ヶ谷から中央線に乗って帰宅する。だから一緒に帰る理由はない。なのに僕らは、千駄ヶ谷を超えて、神宮外苑あたりの銀杏並木を歩き、そして信濃町まで出て中央線に乗っていた。銀杏並木を歩くと、ザックザックと大きな音がした。横を歩く彼女との距離は徐々に近づいていき、歩く度に肩がぶつかるようになった。夕方の光に銀杏並木は光り、この世のものとは思えないほど美しかった。手を伸ばせば掴める位置に二人はいたが、そこで留まった。この親密な気分は幻であることを、僕も彼女も分かっていたからだ。お互い希望の大学に合格すれば、この刹那の想いは失われ、それぞれの生活が営まれていくだろう(そして実際にそうなった)。分かっているが故に、世界は息を呑むほど美しく見えた。いつかもう一度、あの美しい銀杏並木を見ることが出来たらと思う。
X-PRO3 / XF16-80mmF4 R OIS WR
私も予備校に通っておりました時、学内で知り合った女の子に英語を教えくれと頼まれ、二人で帰りに喫茶店に通っておりました。 回を重ねるうちに彼女に引かれている自分に気付き、私の場合は告白してしまいました。残念ながら彼女には・・・でした。
それから7、8年後、かかってきた電話に出てみると彼女でした。そして彼女は一言、「今度、結婚することになったの。」
そこには、「おめでとう!」と声を張り上げ、喜んでいる自分がおりました。
今回のお話で思い出してしまいました。
「それ以上なんにもなかったひと」は、
ずっと心のすみにいて、
ときおりキラキラ舞い降りてくるんですよね✨
そちらも良いお話ですね。
人の人生では、結果はどうであれ、こういう微妙なやりとりがあるんですね。
それが違う結果であれば、また違った人生になったかもしれませんが、こうやって振り返ることが出来るのは、人間の特権だと思っております。
携帯電話も持たない(私の時代ですが)時代の、小さな物語も悪くないと痛感しました。
>「それ以上なんにもなかったひと」は、
ずっと心のすみにいて、
ときおりキラキラ舞い降りてくる
シミジミときます。ここ最近で最も響いた言葉です。昨夜は一献やりながら思い出しました。