「いっしょに行っていい?」
「どこまでもついておいでよ」
デザイナーになる夢を果たすため上京を決意した彼に、私はついていくことを決めた。
親が奨めてくれるお見合い相手は とても温和に笑ってくれる。私がこの町で静かに暮らすことを親は願っているのだろう。
今、夜霧に包まれるようにして、私は駅のホームに立っている。親のこころにそむくことになってしまうかもしれないけれど、彼といっしょに夢を追いかけてみたいのだ。
「ずっといっしょだよね?」
「ぼくは必ず有名になるよ。でも、君とのことは変わらない」
冷たい北風が二人の距離を近くさせ、夜霧がやさしく包んでくれる。
「二人は東京に行こうとしているようだ」という噂は流れていた。親も、お見合い相手も知っているのかもしれない。そのことを思うととても心が重くなるけれど、私は彼と夢を追うことを決めた。今、この小さな町を離れるために、私は彼と駅のホームに立っていた。
「東京のことは知っているの?」
「ううん、でも二人ならやれるよね」
夜行列車に揺られながら、私はこれまでのことを思い出し、これからのことを考えていた。彼の肩に小首をかしげてもたれて座るのは初めてじゃない。夜行列車は夜霧を抜けて もう明日に向かって走り出しているけど、私は長い間、この町に別れを告げていた。
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超久しぶりのショートストーリー。
細川たかしさんの大ヒット曲、「矢切の渡し」を原案に書いてみました。
ちあきなおみさんも歌っていたのでしょうか。
♪ つれて逃げてよ・・・
♪ ついておいでよ・・・
♪ 夕ぐれの雨が降る 矢切の渡し
♪ 親のこころに そむいてまでも
♪ 恋に生きたい 二人です
♪
♪ 見すてないでね・・・
♪ 捨てはしないよ・・・
♪ 北風が泣いて吹く 矢切の渡し
♪ 噂かなしい 柴又すてて
♪ 舟にまかせる さだめです
♪
♪ どこへ行くのよ・・・
♪ 知らぬ土地だよ・・・
♪ 揺れながら艪が咽ぶ 矢切の渡し
♪ 息を殺して 身を寄せながら
♪ 明日へ漕ぎだす 別れです
矢切の渡し
作詞 石本美由起
作曲 船村徹
唄 細川たかし
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こういうシーンをオリジナルで連想できて、歌詞にできるって本当にすごいと思う。
タイトルの「夜霧の私」はちょっとパロディっぽく思われるかもしれないけど、決してそんなつもりじゃないのです。
いろいろなサイトをみていたときに、本当に久しぶりに「矢切の渡し」を聞いたんだけど、その瞬間に、上記のタイトルと文章がパァ~っと浮かんでしまったのでした。
どもども。失礼いたしました。
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