田坂さんの本はこれまで20冊くらいは読んでいると思う。「情報化社会」「知識社会」「リーダーシップ」「なぜ働くのか」「弁証法に基づく思考法」など、本当に様々な示唆、気づきをいただいてきた。今回の「目に見えない資本主義」はそれらの集大成といえるような内容になっていると思う。深い思考と雄大なスケールで語られる本書は、世界的な経済危機、地球規模の環境悪化が叫ばれる今、読む人に希望を与えてくれる。
以下本文から一部抜粋**************
「症状の沈静化」と「病気の治癒」は根本的に異なった課題である。
高熱や出血など、病気の症状が激しいときには、当然まず、その症状を緩和するための様々な処置を迅速に講じるべきであろう。さもなければ、病人の命にかかわるときさえある。しかし、それらの対処療法で症状が軽減されたことによって、その病気が治癒したとは、決して言えない。一方で、病気になった根本原因について診断し、患者の体質や生活習慣の改善も含めた全面的な治療を考えるべきであろう。
現在の世界経済危機への対応が、「対処療法」のみに目を奪われているのではないかと、いま、多くの人々が感じている。この危機は、いずれ終わる。しかし、この危機が終わったとき、「ウォールストリートに活気が戻ってきた」「世界の経済が回復に向かった」というだけでは済まされない根本的な問題が、いま、我々に突き付けられているのである。
ここ数十年の歳月を振り返るならば、金融工学という最先端の技術を駆使して「錬金術」のように利益を生み出していく金融資本主義の姿を見ながら、正常な感覚を持っている人間は、誰もが内心、「何かがおかしい」と感じていた。しかし、「では、何がおかしいのか」と問われれば、高度な数学を駆使したデリバティブという商品を論じる知識を持たず、ノーベル賞経済学者が語る理論に反論する見識を持たない人間は、ただ内心で、「それでも、何かがおかしい」と呟くことしかできなかった。
次にやってくる資本主義とは、いかなる資本主義か。*************
本書では一貫してこのテーマが語られる。そして本来、日本と日本人がもっていた経営感、就業感がいかに優れていたかが語られる。もちろんこれは単なる懐古趣味ではなく、弁証法的に言えば、螺旋的発展ということで、さらに一段高みに登り、進化した日本的経営が復活してくることを示唆している。
たとえばコンプライアンス1つ取ってみても、「ディファクト スタンダード」という名の下に、日本的経営がもともともっていたコンプライアンスとは、日本においてもすっかり形が変わってしまったが、再び日本的経営がもっていた考え方が復活してくる。欧米のように、いくら法規を整備し、罰則を強化してみても、抜け道を見つけて行動する人間は必ずでてくるし、何より「性悪説」にもとづいて生み出される制度が、社会に定着するにつれ、逆に、その制度が想定する人間を増やしていくことになる、という恐るべき欠点が明らかになってくる。日本的経営にもともと内包されていたのは、「放任」でもなく「管理」でもない、「自律」という言葉。「そんなもので管理するのは不可能である。だからこそ、法律で厳しく規制しなければならない」という言葉が聞こえてきそうだが、これからは、こういう観点を重要視していくべきなのだ。
CSRなど、企業の社会的責任も、真の倫理観は「悪いことをしてはならない」という教育からもたらされるものではなく、「良きことを為そう」という教育の結果、人間性が高められ、自然に身につくものだ、と田坂さんは言う。心から同感する。むしろ大企業がCSR報告書という立派なドキュメントを大きな費用をかけて作っているのは、CSRさえも市場原理に流されていて、不自然なことに映る。
日本企業が大切にしてきた 様々な目に見えない報酬。
日本の「ものづくり」の強みは、「ものづくり」に心をこめる精神、思想、文化の強みであること。
その他にも、多くの気づきをいただきながら、日本の美しさが実感できる本です。
さわやかな読後感を、心から、どうもありがとうございます。
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難解な本を読んでいらっしゃるんですね。
ただ・・・論点は以前講演を聞いた 芳村士思風先生と似通っているんじゃないかって・・・
松田さんが引用した部分を読んだだけではあるんですけれど・・・
日本こそが世界のリーダーになるのだ・・・って元気付けてくれたんですが・・・その理由の部分は共通部分が多いように感じましたよ
http://plaza.rakuten.co.jp/sennjyou3033/diary/200908060000/
それから村上和雄さんは私も大好きで、本も何冊か読みましたし、講演も聴きにいきました。感動して 何人かの人に村上和雄さんの「生命の暗号」という本をプレゼントしたこともあります。
それからナイトクルーズのところ。自分も過日 東京湾ナイトクルーズに参加してきました。もっともベンチャー企業系の人たちのドンチャン騒ぎって感じの飲み会で、それはそれで「若さ爆発」って感じで楽しかったですけど。
あっ、そうそう、田坂さんの本は決して難解ではありません。あれは私の抜粋が下手なだけで。。。とても明快でわかりやすい本です。