独立系企業としては史上最年少で上場を果たしたサイバーエージェント社社長 藤田晋さんの自伝。自伝といっても藤田さんはまだ31歳の現役青年経営者だ。
よく「本を書いた社長はそれ以上成功しない」と言われるけど、「20代の私が社長としてもがき苦しみながら成長した軌跡と希有な経験を、次世代の日本をその知力と体力で背負って立つ若い人に知ってもらいたいと考えた」とのことで、「それも年をとってから脚色しながら書くのではなく、まだ記憶が鮮明なうちに書きたいと思いました」とのこと。それは正解だと思う。まさしく鮮烈。すごい迫力だ。
この本に書かれている時代は1995年から2004年の10年間。95年と言えば「Windews95」が発売された年で、これを機にITブームが巻き起こる。その頃学生だった藤田さんはオックスプランニングセンターというベンチャー企業で超ハードなアルバイトに邁進していた。
バイト先の先輩との軽妙な会話はおもしろい。
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渡された名刺にはNTTの文字が大きく印刷されている。
藤田「すいません・・・、会社名がNTTメディアスコープになってますけど」
先輩「ここにちゃんと株式会社オックスプランニングセンターって書いてあるでしょ?」
よく見ると、確かに堂々と書かれた「NTT」の文字の右端に、消え入りそうな文字でそう書いてありました。
先輩「あのね、飛び込みで営業に行ってオックスプランニングセンターって言っても、きな臭いと思われるでしょ?」
藤田「はぁ・・・そうですか」
先輩「NTTの人だと思えば向こうも安心するから。これで行ってきて」
藤田「なるほど・・・」
先輩「それからね、営業先で年を訊かれたら25歳って言ってね」
藤田「どうしてですか?」
先輩「『21歳です』とか『まだ学生のアルバイトです』なんて言ってみなよ。売れるものも売れなくなっちゃうよ」
藤田「はい・・・」
先輩「よくおれたちみたいな新しい会社はすぐ実績を見せろって言われるだろう?」
藤田「そうですね」
先輩「それで毎回、『まだ実績はありません』って馬鹿正直に言ってたら、事業が立ち上がると思うか?」
藤田「無理ですね」
先輩「ハッタリでもいいから、とりあえず実績を口に出して言ってしまって、次に会うときまでに本当に実績を作ればいいんだ」
藤田「実績ができなかったら?」
先輩「もちろん、そしたらただの嘘つきになっちゃうけどな」
実績を馬鹿正直に言っていたら、実績自体が作れない。苦しい内情のベンチャー企業がゼロから何かを生み出すことができる理由を知った瞬間でした。
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この頃自分はすでに30代後半。本の中に登場する場所のすぐヨコをあたかも傍観者のように通り過ぎている。すでに分別がつき過ぎていたのかもしれない。
98年サイバーエージェント社 起業。怒濤の営業の日々。99年、「ビットバレー」という言葉も生まれ、ネットバブルはピークに。サイバーエージェントの社員は会社に泊まり込むようにして、仕事に邁進。忙しくも楽しい、幸せな時期を過ごす。その勢いにのり2000年春、マザースへ上場。そして同時にネットバブル崩壊。以降 藤田さんは塗炭の苦しみを味わうことになる。
株価暴落、赤字、バッシング、不信、社員の退職、提携停止・・・。寝食忘れるほど努力して作り上げたサイバーエージェントを身売りすることまで考え、ノイローゼ直前まで追い込まれた藤田さんは、しかし2004年9月期の通期決算報告で売上高267億円、最終利益も40億円以上になることを発表し、株価も戻し、長かった低迷にピリオドを打つ。
読めばわかるけど、決して彼らはバブルに浮かれていたわけではない。確かにインターネットにはそれだけ大きなビジネスチャンスが潜んでいて(今も継続中)、そのビジネスに昼夜問わず没頭していたのだ。できないこともできると言い張り、それを後づけで強引に実現させていった。その勇気と夢こそが今の時代を切り開いた。彼らこそ新しい時代のリーダーで、この本は一人のリーダーのつらく苦しいサクセスストーリーだ。
本当に心が熱くなる、拍手を送りたくなる本だ。
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その時は、短髪で発言の内容も結構トッポかった(今言わないかな?)気がします。
ホリエモン社長が揉めてた先日、久しぶりに姿を拝見した時は、随分優しげな顔に見えました。
苦しい時期を乗り越られた事と、今でも時代を切り開き続けている、双方の面からの自信からでしょうか?
おそばせながら、僕も本を読んで勉強したく思います。
とてもやる気がでる、いい本だと思います。ぜひ読まれることをお奨めいたします。勉強するのはぜんぜん遅くないですよね。
だって自分なんかもう47歳だから、完全手遅れになってしまうでしょ (^_^;) 。まだ遅くないと思い続けてともにチャレンジしていきましょうね~。