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帯とけの枕草子
〔一〕夏は
枕草子〔一〕夏は
夏はよる、月のころはさら也、闇もなを、ほたるの多くとびちがひたる。又たゞ一二など、ほのかにうちひかりて行もおかし。雨などふるもおかし。
(夏は夜、月の頃はなおさらのこと、闇もやはり蛍が多く飛び交っているの、また、ただ一つ二つ、ほのかに光って行くのも風情がある。雨など降るのもいい……撫づは夜、つきのころはなおさらのこと、やんでもなお情熱の炎が多くとび交っているの、また、ただ一、二回ほのかに燃えて逝くのもいい、お雨降るのもいい)。
「夏…なつ…なづ…撫づ…愛撫する」「月…ささらえをとこ…月人壮士…つきよみをとこ…突き」「ほたる…蛍…情熱の火…あきになると消える」「行…逝く」「雨…おとこ雨」。
古今和歌集 撰者の一人、凡河内躬恒の歌を聞きましょう。
巻第三 夏歌
ちりをだにすへじとぞ思ふ さきしよりいもと我がぬるとこ夏の花
(塵さえ置かないぞと思う、咲きしより、妻と我が寝る床なつの花……散りをさえ末にしないぞと思う、お花さきしより、妻と我が寝る、常撫づの花)
「ちり…塵…散り…おとこ花散る」「すへじ…据えじ…置かない…すゑじ…末じ…終末にしない」「とこなつ…撫子の別名…常夏…とこ撫づ」「とこ…床…常」「と…門…女」「花…草花…女」。
言の戯れを知れば、歌の「清げな姿」だけでなく、「心におかしきところ」も聞こえるでしょう。文も同じ。
伝授 清原のおうな
聞書 かき人しらず 〔2015・8月、改訂しました)
古今和歌集の原文は、岩波書店 新日本古典文学大系 古今和歌集による。