帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔一〕夏は

2011-02-13 06:19:23 | 古典

 

                      帯とけの枕草子

                         一〕夏は

 

 
  枕草子〔一〕夏は


 夏はよる、月のころはさら也、闇もなを、ほたるの多くとびちがひたる。又たゞ一二など、ほのかにうちひかりて行もおかし。雨などふるもおかし。

(夏は夜、月の頃はなおさらのこと、闇もやはり蛍が多く飛び交っているの、また、ただ一つ二つ、ほのかに光って行くのも風情がある。雨など降るのもいい……撫づは夜、つきのころはなおさらのこと、やんでもなお情熱の炎が多くとび交っているの、また、ただ一、二回ほのかに燃えて逝くのもいい、お雨降るのもいい)。


 「夏…なつ…なづ…撫づ…愛撫する」「月…ささらえをとこ…月人壮士…つきよみをとこ…突き」「ほたる…蛍…情熱の火…あきになると消える」「行…逝く」「雨…おとこ雨」。


 古今和歌集  撰者の一人、凡河内躬恒の歌を聞きましょう。

 巻第三 夏歌

 ちりをだにすへじとぞ思ふ  さきしよりいもと我がぬるとこ夏の花

 (塵さえ置かないぞと思う、咲きしより、妻と我が寝る床なつの花……散りをさえ末にしないぞと思う、お花さきしより、妻と我が寝る、常撫づの花)


 「ちり…塵…散り…おとこ花散る」「すへじ…据えじ…置かない…すゑじ…末じ…終末にしない」「とこなつ…撫子の別名…常夏…とこ撫づ」「とこ…床…常」「と…門…女」「花…草花…女」。


言の戯れを知れば、歌の「清げな姿」だけでなく、「心におかしきところ」も聞こえるでしょう。文も同じ。



  
伝授 清原のおうな
                            

 

   聞書  かき人しらず  〔2015・8月、改訂しました)                                                      

 

   古今和歌集の原文は、岩波書店 新日本古典文学大系 古今和歌集による。