佐藤美術館 「吾輩の猫展」 2017年11月7日(火)~ 12月24日(日)
夏目漱石の生誕150年。新宿区の「漱石山房記念館」と新宿フィールドミュージアムの連携イベントとして開催された展覧会。
佐藤美術館が、現代作家たちに「猫」をテーマにした作品を依頼。その数70名。猫は70匹越えです。(写真可。但しSNS等に乗せる時は、展覧会、作家・タイトル名を記載のうえ、とありました)
会場はエレベーターで3,4,5階。夢の貸し切り状態になるときもありました。
絵のモデル猫たちの写真も、各階に展示。これだけでも楽しい。
ネコ絵をたっぷり堪能して、楽しい展覧会でした。とりわけお気に入りの絵・お気に入りのネコの備忘録です。
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個人的TOP3を。
楽しみにしていたのは、フジイフランソワさん。
「威を借るねこ」 古典を咀嚼してダークサイドに擬態?するネコがなんてステキ。国芳みたいにたっぷりいる。
やだもう最高。悪そう~。
キミは風神のつもりなの?天女だったらゴメンね!
おお、あねさんと呼びたい絢爛な模様。狩野風のタカ?右のはカッパ?
ふっ
他にもいろいろ。ツチノコぽいのもいた。もう一回見に行きたいくらい。このナナメな愛こそが、日本の戯画や妖怪絵に通じる気がする。
以前からどうやって描いているのだろうと思っていましたが、素材欄に「和紙・膠・墨・鉛筆・胡粉・ルイボスティー・水彩」と。なるほど。
池永康晟「猫・習作・神園町あたり」
展示作のなかでも小さい絵、抑えた色調なのに、絵の前に来るとやはり出色。
池永さんの現代美人画はたいへん人気だけれど、これまで実物を見たことはなかった。あの10年かかって作り上げたという独特の色調が、ネコを描いてもなんともいえない味わいになっている。古雅で現代的というか。
ネコの表情から目が離せないくらい。美人画に負けていないほど、目線や口元に繊細に留意している。
美人画もがぜん実物を見てみたくなった。
70作見ながら思うのは、動物の絵ってなかなか難しい。毛描きも、なまじに中途半端な細密では残念な感じになってしまうし。フジイフランソワさんや池永さんのように線で輪郭を描くのも、シンプルゆえに簡単ではなさそう。
技術的な上手さはよくわかないけれど、ネコの人格を尊重している絵が印象に残る。
伊勢田理沙「触りたくても触れさせぬ君」
これだけもふもふのお腹をみせておいて、手を出すときっとびしゃっとやるのでしょう。あんまりな。
落ち葉のかけらがついている。それが何だというんだ、と。
3つに決められなくてもうひとつ。
加茂幸子「守護猫ーサバンナの星」
狛ねこ?。この頼りがいのありそうな顔。安心感。背中にもたれかかりたくなる。このままこの女の子を乗せて、星の砂漠をひとっ飛びしそう。
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選び難いので無理やり分類してみましょう。
《妖かし編》
フジイフランソワもそうですが、他にもいい作品がいっぱい。
北村さゆり「足音」「ネコまた」 猫ビーム。赤く垂れそうな輪っかがなんとも・・
こう見えて、又兵衛的な凄惨なシーンもある。カンガルーはなんだろうね?
《ネコの気持ち編》
染谷香理「向こう側」
疎外感のような。自分だけ入れない感じ、あるよね。
斎正機「ハイイロノネコノキモチ」 こんなことを考えているんだね。浮遊する金魚がきれいだなあ。
野地美樹子「揺れる想い」 下の子にかかりきりなお母さんに、甘えたいのに甘えられない上のお子さんにのせて描いたそう。
こんなに寂しい目なのに、蝶なんか見て平気を装おうこの表情が、切なくて、今見返してもじわっと(涙)。しっぽまで切ない。
筆致も丁寧でとても美しく、コスモスにもしみじみと見惚れてしまった。
《ネコの尊厳編》
TOP3の伊勢田理沙「触りたくても触れさせぬ君」もここでしょうか。
忠田愛「雨の日も風の日も」も圧倒される。
人生しょってる。戸嶋靖昌を思い出した重厚さ。
《二人の関係編》
佛淵静子「ねこの集会」 間延びした猫と、きゅっとした猫。なんとも不思議な間合いの絵。二人の関係はよくわからないが。
金丸悠児「BLACK&WHITE」 ほのぼの。家族を描いてみようと思ったそう。
《負けまへんで編》
松崎綾子「攻防」 猫とブロッコリーは、それぞれ闘っているのだ。生きるために。そして画家自身も。
ダイエットと、害虫取りと。
海老洋「サクラノウマ ボタンノネコ」 ネコ:ばかにしてんのかぁ(怒) 。ウマ:ヒヒっ(嘲)。←勝手な見解
《花鳥画編》
幸田文香「春待つ」 霞んだ色彩がきれいだなあ。植物を根元から描いてあるのが個人的に好き。
京都絵美「猫」 まあ、きれい。牡丹に百合に美猫。
阿部清子「墨玉」 折れた猫じゃらし。ネコの仕業であろうけれど、まだかすかに殺気の片鱗が残っている。猫じゃらしにとってみれば無情と言えようか。
《どこにも分類できないが、すごくて好き編》
山田りえ「すべてはここから始まった」
壮大なスケール。
永井桃子「祭りの日に」
祭りの神性と熱気がさく裂。
《あの作家さんがネコ描くとこうなるのね編》
諏訪敦「Campanilla」 良き相棒。留学中のスペインで二年間ともに暮らし、連れ帰った猫。
岩田壮平「黒き猫と蜂」
いつも鮮烈な彩色が印象深い岩田さんだけど、こちらは黒猫に内から少し色が放たれている。ネコと蜂は双方別方向を向きつつ、不穏な緊張感。
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こうしてピックアップしてみると、クセのある猫が多いような。筆者の性格がでるのかしらね。
70点中マイペース猫が多めなのも、これが猫好きの特徴かもしれません。
イヌ絵だったら、応挙や芳中、芦雪のイヌみたいにころんころんのかわいいのが多くなるのかもしれない。
新進の作家さんを応援する佐藤美術館。統一テーマで描いてもらう企画、作家さんらしい作風だったり、意外性もあったり。知らなかった作家さんに出会えるのも、先入観なしで見ることができて、とてもうれしい。次回を期待しております。