新年恒例の干支特集。ねずみをモチーフとした書画や工芸品が展示されていました。
ここ数年を思い返すと、干支の美術表現には、人間の動物を見るまなざしや関わりが反映されていることに気が付く。
猿だったら、猿群れや家族といったコミュニティ感だったり、意外と精神的な内面表現だったり。
犬は、古来からペット。人間の横や村の通りに一匹描き入れておくだけで、ほっこりアットホーム感がでる。たまに狛犬とかね。
鳥は、やはり美しさの表現。衣装や花鳥画、工芸品と雅やかな品々が満載。
昨年の猪は、様相が多岐にわたっていた。食材から始まり、吉祥画題、博物図譜と幅広く登場。山中が描かれるのが個人的に興味深かった。
そして今年のねずみ。ねずみって立ち位置が微妙な感じ。「かわいい」×「知恵もの」×「害獣」のはざまで、好かれ、嫌われ。これとひとくくりにしてとらえられないのがねずみというモチーフなんでしょうか。
とにかく幅広い角度からねずみを検証していました。
*
うれしいことに、前の日記に書いた「鼠草子」(18世紀) が展示されていました。しかも前に本館では巻かれて見られなかった巻末の部分が広げられていました。
正体がばれて人間の妻に追われたあと、ねずみは「猫の御房」に出会い、ともに高野山の奥の院にのぼり、仏堂修行に励む。
ねずみも猫の御房も、コマ送りみたいに動きが描かれている。萩や院など、背景もこまやか。
猫の御房は200歳を越すというが、確かに…。ねずみはひとの良さが出ている。。
作者不詳だけれど、絵がかわいいので、この人が描いた他の絵草子もどこかで出会いたいもの。
*
ほかにも、工芸品、絵、書物、博物図譜、涅槃図、浮世絵などからねずみが集結。
印象深かったものを以下に。
着ものが展示されていました。ねずみも文様ではなくて、「色」ときましたか。
ねずみを色に名付けた日本人。思えば不思議な。
倹約令で華美な色が禁止されたとはいえ、「48茶百ねずみ」と言われるほど、ねずみ色は繊細な差異で展開。しかもその地味な色が江戸後期から明治時代に大流行したという。そういえば北斎の美人画にもねずみ色の着物が多い。
どれも心憎いばかりのおしゃれの上級者ぶり。ねずみ色の地に、逆に色や刺繍がきらっと引き立って見えたのです。
小袖 藍鼠紋縮緬地唐山水人物模様 江戸時代
一つ身振袖 鼠色縮緬地萩流水烏帽子鞍模様 江戸時代19世紀
振袖 鼠色縮緬地竹模様(笹竜胆紋付) 明治時代19世紀
若い女性が着たとは思えないほど渋い。どんな帯や帯留めを合わせたのだろう。
書物からもねずみを検証していました。
ねずみといえば、雪舟。足の指でネズミを描いたお話は、狩野栄納の「本朝画史」1693年 に記載されているのでしたか。父・狩野山雪の「本朝画人略伝」の草稿をもとに補足して出版したもの。
「和訓栞」(谷川士清編1830年)という江戸時代の国語辞書には、ねずみという名称の一説が記されている。「寝盗み(人が寝た後に盗み食う)」から転化したとのこと。
由来は泥棒ねずみでも、繁殖力の強さから子孫繁栄のモチーフとして東アジアでは愛されてきたという。
根付や印籠、水滴などの工芸品にあらわされたねずみは、とてもかわいい。(たぶん小物なのがポイント。大きいと怖いかも。)
「南京に唐子水滴」は、一瞬唐子がねずみに見えたけれど、ねずみは南京から顔を出していた。
ねずみは食材といっしょがしっくりくる。
<かわいい> と <ちょっと苦手…> の境界は、写実の度合いによるかもしれない。写実のほうにいくと、動きそうで怖い。
干支の帯留め(19~20世紀)では、ウサギ(上から二番め)に惹かれる。この角度からきたか☆。象のダンボみたいに飛べそう。
拓本になると大きい作品でも愛らしい。
金庾信墓護石拓本 明治時代・19世紀(原碑=統一新羅・8~9世紀)
金庾信とは、韓流ドラマの「善徳女王」のユシン殿では。三国統一を成し遂げた新羅の英雄。墓を取り囲む12の護石には文官姿の干支動物が彫られている。以前、猪や猿のが展示されていた。
それと同時代に彫られた日本の墓守ねずみがキュート。
隼人石像碑拓本 江戸時代・19世紀(原碑=奈良時代・8世紀)
聖武天皇の皇太子とされる墓の立石のひとつ。
絵画では、渡辺南岳の干支図(18世紀)が良い。なにが良いって、動物たちのキメ顔が最高にかっこいい。
特に悪そうな龍が最高。黒雲もいいなあ。
目で殺れるぜみたいな鶏。
牛、渋っ。
ねずみはふつうなんだけど。虎は赤い舌がペロっと♡。
ひと昔前の俳優みたいないぶし銀の魅力?。南岳は応門10哲の一人。残された作品は60点ほどと少ないそうだけれど、ちょっとヒトクセありそうな作品がちらほらある。
浮世絵では、とくに北斎の麦藁細工の見世物 1820年 が見どころ満載。
北斎の下絵をもとに作られた麦わら人形が、1820年に浅草の金龍寺で披露された。これはその見世物を題材にし、干支の12の額絵も描きこまれている。
白象にのる唐美人の人形の美しさと存在感。
諸葛孔明。後ろに闇に浮かぶ龍が、北斎の龍だ。
このおじさんは??。周蒼とある。
北斎の描く動物は表情が意味ありげ。
犬の額絵は、漆の背景に螺鈿の桜を感じるような。
それでは、国芳の「ねずみ除けの猫」でしめくくり。
猫は干支になれなかったけれど、ねずみに関連して描かれたりするので、猫好きとしては救われます。