いつの世も、出会いと別れはつきものです。
戦前から戦後にかけて、五人もの妻と結婚した男性がいました。
好きで五人の妻を娶ったわけではなく、次々と妻が病死したり、出ていったりしたのです。
ある時期までは、女性には選挙権も、働く場所もなく、嫁に行くのが生きていくための仕事でした。
たとえ、嫁ぐ男性が身体が弱く働けなくても、女性はそこへ嫁に行くしかなかった時代がありました。
最後の5人目の女性は、夫が戦死し、大事なわが子を夫の実家において、出て行くように舅たちに言われました。
女性は舅には逆らえず、我が子を置いて家を出るしか道はありませんでした。
女性の瞳から涙があふれ出し、我が子との別れを惜しみました。
そんな女性が嫁いだ先は、病弱で働けない男の家。
彼女は幸せになりたい一心で、働けない夫のためにも懸命に働きました。
一人の子供に恵まれ幸せでした。
そして月日がたち、昔、置き去りにしなければならなかった我が子に、初めての子供が生まれたことを知った彼女は、翌年、高齢にもかかわらず二人目の子を授かりました。
置き去りにされた子供は、大人になっても自分を置き去りにした母親を求め続けていました。
終戦の放送が流れると、けっして愛されないで育てられたわけでもない我が子は、大人になって子供を授かっても、自分の子供の前で恥ずかしくもなく、大粒の涙をこぼして、赤ちゃんのように泣いていました。
「かあちゃん、どうして、俺を捨てた! 父ちゃん、どうして、戦争で死んだ!、俺は、戦争孤児だ!」
彼女は死ぬまで働きどおしでした。心臓の病で死去されました。
置き去りにされた我が子は、もう孫がいる老人になりました。
彼女の死に顔は、観音様のように穏やかだったそうです。
置き去りにされた我が子は老人になっても、終戦の夏が来るたびに、大粒の涙を流して、父ちゃん!母ちゃん!と泣き叫んでいるそうです。
そうそう、五人の妻を娶った男性の話はというと、どうも、心優しいい人だったようですよ。
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