気の向くままに

終着はいつ、どこでもいい 気の向くままに書き記す

「自己実現」の欲求は何歳になっても消えない…世のため人のための視点を忘れずに

2014-10-04 11:48:38 | 日記

 ヒトは欲深い動物で、百八つもの悩み(煩悩・欲)を持っている。もう約30年以上も前のことになろうか。アメリカの心理学者・アブラハム・マズロー氏が「欲求の5段階説」を提唱した。氏は欲求を実に分かりやすく、次のように分類して説明している。これを私流に解説すると次の通りである。

 まず、「基本的な欲求」として、(1)食べる、眠るなどの食欲・性欲といった生理的欲求(2)危険を避けたい、安全な所にいたいなどの安全の欲求。次に、「発展的な欲求」として、(3)集団に所属し、愛されたい、といった集団帰属の欲求(4)尊敬・名声・地位を得たいという承認の欲求(5)そしてマズローは、最高の欲求として“自己実現”の欲求があると説いている。

 これらの欲求には面白い関係がある。欲求の強さ=欲求度の質の側面と欲求の持続度との関係である。これを座標軸上に示すと図のようになる。

 一例をあげれば、水を飲みたいという生理的欲求は強いものだが、「のどもと過ぎれば熱さを忘れる」ということわざの通り、コップ一杯の水でその欲望は瞬時に消えてしまう。碁を強くなりたいという承認の欲求は、何歳になっても消えない。

 かつて“落ちこぼれ”という嫌な言葉がはやったことがあったが、アルビン・トフラー氏(米・未来学者)は「現代の文盲(落ちこぼれ)は学ぶ方法を知らない人、学ぶ楽しさを知らない人である」と言っている。また、ロバート・アンダーソン氏(米・ハーバード大教授)は「いかなる優れた大学においても、そこで学んだことは、その後の人生で学ぶことの1%にもならない」と言っている。その一例をあげよう。

 高知県の小学校で、PTA会員に小6程度の試験問題をさせたところ、平均点は30点台であった。室戸市の加藤政義さんは、小学校を出て大工をした。その後、神戸に出て、製鉄所で勤務した。さらに、夜間の工業高校へ入学し、終戦後は帰省して郵便局に勤務。昭和47年に退職した。再び大工をしながら6人の子供を育てあげた。向学心は衰えず、12キロの道をバイク通学し、室戸高校定時制に入学した。

 2年生の時、実家が全焼した。定時制を卒業したときは79歳。成績は優秀で、「勉強することはちっとも苦にならん。次は近畿大学法学部をめざす」と述べた。明治生まれの加藤さんの姿は、まさに生涯学習のお手本である(昭和63年3月3日付の新聞切り抜きから)。

 加藤さんだけでなく、人は皆、生涯をかけて自己実現したいという欲求を持っているものである。私は10年ほど前から、これに加えて「その学習は世のため、人のためになっているか」という視点で点検することにしている。

 

足立勝美(あだち・かつみ)
兵庫県立高校教諭、県立「但馬文教府」の長、豊岡高校長などを務め、平成10年に退職。24年、瑞宝小綬章受章。『教育の座標軸』など著書多数。個人通信「座標」をホームページで発信。養父市八鹿町在住。鳥取大農学部卒。76歳。

(2014.10.4 06:00 産経WEST)