芭蕉の句に〈風流の初めや奥の田植うた〉とある。白手ぬぐいの姉さんかぶりに赤だすき、歌に合わせて手際よく苗を植えるのは早乙女であろう。稲などのとがった穂先を「芒(のぎ)」と呼び、この時節に種をまく。きょうは二十四節気の「芒種(ぼうしゅ)」である
▼先ほどの句からは、田植え歌とはまた別の歌も聞こえてくる。小紙の投稿欄「談話室」に農業を営む男性のお便りが載っていた。「自宅近くの田んぼでは夜、カエルの合唱になる。雨が降るとその声は一層高らかになる…」。耳で知る季節の移ろいに味わいがある
▼俳句の季語がそうであるように、四季への感度は自然が身の回りにあってこそ磨かれる。都心では季節感の砥石(といし)となるものが乏しい。植物の開花や動物の初鳴きから季節の変化を知る気象庁の「生物季節観測」も、東京や大阪などの都市部ではかなり難渋している
▼観測項目となってきたホタルやトノサマガエルは近年、まったく姿を見せない。東京の場合、ホタルは記録が残る昭和63年以降、トノサマガエルも平成元年以降、一度も観測されていない。「光源」となる清流も、合唱の「音源」となる田園も確かに縁遠くなった
▼都心で時節を律義に守っているのはアジサイぐらいか。皮肉にも「移り気」の花言葉を持ち、別名を「七変化」や「八仙花」という。思えば消費税率10%への引き上げをめぐり「再び延期することはない」との弁を聞いてから、先送りの決断に2年とたっていない
▼次の二十四節気は21日の夏至、翌22日は参院選の公示日になる。〈迷うあじさい七色変わる、色が定まりゃ花が散る〉という。与党も野党も、「七色」への言い分はあろう。政治の季節、有権者たるわれわれがまず感度を磨かなければなるまい。
2016.6.5 【産経抄】
<👀も>
昨日、庭先でトンボを見た。自然が身の回りにある幸せを感じた。
東海地方以西は梅雨に入ったとのことだが、当地はさわやかな日が続いている。
生物季節観測の概要(気象庁)
気象庁では、全国の気象官署で統一した基準によりうめ・さくらの開花した日、かえで・いちょうが紅(黄)葉した日などの植物季節観測(注)や、うぐいす・あぶらぜみの鳴き声を初めて聞いた日、つばめ・ほたるを初めて見た日などの動物季節観測を行っています。
観測された結果は、季節の遅れ進みや、気候の違いなど総合的な気象状況の推移を把握するのに用いられる他、新聞やテレビなどにより生活情報のひとつとして利用されています。
ここでは主な観測種目について、その観測方法等を紹介します。
(注)植物季節観測の多くは、観察する対象の木(標本木)を定めて実施しています。
・観測方法
植物 : うめ(128KB) あじさい(154KB) いちょう(138KB) かえで(160KB)
動物 : うぐいす(153KB) つばめ(140KB) もんしろちょう(133KB) ほたる(114KB) あぶらぜみ(115KB)
・最近のデータ