毎年、新しい季節がめぐるたびに、その頃に食べた同じものが食べたくなったり、
同じ場所を訪れてみたくなったりすることはないだろうか。
今年の近畿地方は梅雨入り宣言をしてから、雨の日が少ない。
それでも6月の声を聞くと、甘酸っぱくて爽やか味が恋しくなるのである。
最初は、むこうから自分の元にやってくるのを待ったりするのだが、いよいよ訪れないと、
もっとさらに食べたくなってくる。もう時季が終わってしまう…と焦るほど(笑)
季節の花を見るのと同じ感覚なのだ。
そういう時にタイミングよくコラムを書く仕事などがあると、ちょうど良い。
3年ほど前には「甘夏かあちゃん」(佐賀県唐津市呼子町加部島3748)から
「呼子夢甘夏ゼリー」をお取り寄せし、食コラムの記事に掲載してもらった。
「みずみずしい香りと自然のままのほろ苦さ」
光の透けるぷるぷるの黄金肌。半分に割っておくられた皮の器を切ると
柑橘アロマのシャワーが飛び出し、ん~、南国のエネルギー!
つるんと滑らかな口溶け。自然な甘酸っぱさの後には、ちょっぴりのほろ苦さが駆け抜けて、
体のなかを清々しい風がわたった。
はっきりしない梅雨時期だからこそ、このほろ苦さが醍醐味なのだ。
地元のお母ちゃんたちが玄界灘の段々畑で夏みかんを収穫する姿が浮かぶよう。
せっせ、せっせと、雨の日も風の日もバラックの小屋でゼリーをこしらえる光景まで頭をよぎる。
そしてああ、素朴でうまいなあ!すごい果汁!と感動して食べるゼリーなのである。
翌年の梅雨には、「銀座のジンジャーシロップ」の記事を書いた。
そして「雪の下人参のジュース」なんかを取りあげたりして、
次に見つけたのが柑橘生活研究所からの「檸檬れもん」!
これはおそらく地元の人しか知らないんじゃないかしら。
手作りのレモンジュースだけれど、ジュース!?などという半端なものとは違っていた。
ナント、レモンよりも檸檬の味がするのである。
広島の呉市豊町は、瀬戸内の気候と海から照り返す陽光に包まれた黄金の島だ。
水はけのよい土壌、急傾斜地を生かしてげしと呼ばれる石積が築かれ、
空に向かって仰ぐと柑橘類の段々畑が延々と続く。そんな地の利を生かしてつくる大長レモン!
宅配にはレモンが数個、ごろん。と無造作に放りこまれていて、村の匂いを運んできてくれた。
ゴクリと飲んだ時に、あ、太陽の味がすると直感した。
大長レモンを100%使い、苦みが出る手前でストップする贅沢な搾り方。
これに大長みかんの花蜂蜜とグラニュー糖だけを加えた傑作らしい。
農薬が一切含まれていないので、安心して飲めるし、4倍ほどに薄めればレモネードに。
炭酸で割ってスカッシュにしてもいい。2年続けてお取り寄せて、お友達にも配った懐かしい味だ。
そして、そして。
昨日大阪の伊勢丹の地下でついに購入しましたよ。
これこれ、老松の「夏柑糖」!!(ああここまでが長かった)
とりあえず、一人で丸ごと1個を食べたい気持ちを全身全霊で抑えて、
半分に切って(その半分に切る時もあるが)丁寧にスプーンで果汁をすくって頂く。
ああ、これこれ。夏みかん。
果汁感もたっぷり、
京都の老舗和菓子屋・老松さんならではのほろ苦さ、上品である。
甘夏、のほうがみずみずしさは勝つかもしれないが、キリッとした酸味がすっきり解けていく感覚…。
夏みかんの中のある小袋を一つ一つ手で取り出し、小袋についている苦みの強いシロジュウを
取り除いてから果汁を搾っている。
これと並行して作っておいた寒天が冷めたところで
両者をあわせるとおつな冷菓に仕上がるのだ。
1個1460円と結構な値段だが、致し方ないね。
夏みかんというと、国語の教科書に載っていた
夏みかんの随筆を思い出してしまう。
揺れる赤いランドセル、どこからか漂い流れてくる香り。
誰かがポツリ。
「これは、レモンの匂いですか?」
いいえ、夏みかんですよと答えるタクシー運転手。そのセリフだけで、
小学生の私は、ゴクリとツバを飲み込んだものだ。
この夏柑糖、
「今年は萩の夏みかんは不作で、7月中旬で終わってしまうのかもしれませんので」とのこと。
そういえば、京都・若菜屋の「焼き栗きんとん」も。
一昨年の6月に社寺特別拝観の
お茶請けとして頂いたことがあって、あまりに感動して翌月の祗園で若菜屋を訪れたら、
「もうあらしまへんわ。残念どすなあ。秋まで待っておくれやし」
とニッコリ笑いながら、いわれたのを思い出した。
和菓子の旬!
甘泉堂の水ようかんや、先斗町駿河屋の竹露(1個158円)もそろそろ時季だなあ。来月は夏だ。