関空を出国したのは、お昼の1時過ぎ。
今回の旅は、娘のNと2人きりなのだった。
エールフランス。
飛行機の乗り込みを待つ間、私たちはそれぞれ、日本へ置いてくる夫と、
娘は出来たばかりの彼氏に、
「じゃあ、行ってきます。元気で帰ってくるからね。…」と
別れの挨拶を、10分ほど交わして(iPhoneを通して)
晴れて自由の身で、飛行機のシート深くに体を預けたのだった。
白くほわっほわの雲の上にぽっかりと顔を出すと、
青い空はもっと明度が高く、太陽の光をまっしぐらに浴びて、ひどく鮮明なブルーに思えた。
海よりも、ずっとずっと明るいブルー。その明るさは太陽の光が近いからに違いない。
雲を下に見る別天地。
旅立つ時、私はいつも、この光の世界に心を奪われる。
そして、旅立つ時は、こうも思う。
まるで家出娘だ。
昨日までの自分を脱ぎ捨てて、不安と不安、期待に打ち震えるいい気分に、この日もそれなりにワクワクしていた。
まず、エールフランスのこんな機内安全ビデオにしびれた。
CMも素晴らしかった。
日本にはない、型におさまらないハイレベルなセンス
機内では赤ワインと白ワインを1本ずつオーダーして、
2本のヨーロッパ映画をみて、ワインとチーズとパンのおいしさに満足し、
ミラン・クンデラ「存在の耐えられない軽さ」を読み返して12時間過ごした。
パリのシャルル・ド・ゴール空港に到着したのは夕刻の時間。
市内への道は、混雑していた。
灰色の雲が垂れこめた、重く厚い雲に覆われた空。
ハイウエイは、ヨーロッパもアジアもそう変わらない。
車窓からみえる、看板もホコリを被って、まるでアジアのように薄汚く見えた。
市内に入ると、道は渋滞していてずっと向こうまでトラックや自家用車が続いていた。
道幅の狭さのわりに、のっぽすぎる洋館は
カッターで切り落としたように同じ位置で止まっている。そして、おそらくアパルトマンや商店、ホテル、シャッターを降ろした雑貨店が何軒も続く。
私とNが最初の滞在で宿泊するのは、 オペラ座からほど近い地下鉄カデ駅から徒歩3分の「トゥーリン」というプチホテルだ。
「もうすぐ着きますよ」と
知らせてくれた声で再び我に返って窓の外をみると、パリの街はすっかり排気ガスの混じった夜の霧がたちこめていた。
浮浪者のような格好をした男達と、黒人、女たちがあちらこちらで騒いでいる。
ここがオペラ座付近とは思えない不良っぽさが醸す雰囲気。
パリは私が思った以上に大人の街だったのだ。
青いとばりに、黄色っぽい光だけが薄気味悪く光る。
日本の夜は、コンビニの明るすぎる蛍光灯をはじめとして、赤く、青く、緑や。オレンジの色の波が渦巻いている。
興ざめすぎる夜はいつまでも眠らない。
アールデコ調の黒いテラスで統一された石の建物が、ぶきみに高すぎるのだろうか。
パリの晩は、まだ9時だというのに。狭い道路にひしめく建物群が光のなかに影のように覆い被さって、迫ってくる街だった。
時々、きれいなワンピースを翻して歩くパリジェンヌにも出くわすが、
たいていが不良の男女がたむろしている姿が印象的だった。
ホテルに荷物をおいてシャワーを浴びると、私たちはカフェに繰り出した。