モンサンミッシェル修道院は海の上に浮かぶ、灰色の搭というイメージがある。
旅をしたのが3月で寒かったし、
空に重い雲がたちこめる季節だったせいもあるのだろう。
土産物ショップやカフェなどが続く観光の通りからはずれて、
修道院の入り口に近づくにつれ、
その気配は重く、深い悲しみに包まれているのが感触として伝わってくる。
同時に、厳かな祈りが聞こえてくるようだ。
708年、アヴランシュの司教オペールが、大天使のミカエルから
「このモン(岩山)に聖堂を建てよ」
というお告げをうけ、(最初は聞き入れなかったが3度も現れた)
礼拝堂を建てたことがモンサンミッシェルの始まりであると言われている。
史実を読むと、966年にノルマンディー公のリシャール一世が修道院を島に建て、
増改築を重ね、13世紀頃にほぼ現在のかたちになったのだそうだ。
中世ロマネスク様式とその後のゴシック建築が混在する簡素だが
独特の雰囲気をもつ様式美。
古いレンガと厚い石の壁。
途中、焼けて劣化した焦げ茶色の石(壁)が、数カ所あったが
これも英国との100年戦争の悲哀を物語っていると知ると、また味方が変わってくる。
随所に、建造された彫刻などは、やはり見応えがあった。
このように大胆で意志の強い彫刻物の深い堀りは、日本には少ない。
ヨーロッパならではのもの。美しい芸術である。
鉄柵脇の入り口へ進み、長い階段を90段ものぼり終えると、
聖堂前の西のテラスへ出た。
海抜80メートルのこの場所は、西にブルターニュ地方のカルカンの岩山から
東はノルマンディー、北にトンブレーヌ孤島までみわたせる、吹き抜けのテラス。
引き潮の時間帯なので広大な泥色をした干潟。こんな大自然もあるのだとこれまでみたこともない
塩の壮大さに、胸をうたれた。
そして、島内の湿気と不思議な暗い靄も、この塩の紗によって
生まれていたのだろうかと思いながら、ぼんやり泥色の干潟をみた。
なんだか修道院をめざして登ってくる観光客の群が蟻の行列のようにみえて
滑稽だった。
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