月の晩にひらく「アンデルの手帖」

writer みつながかずみ が綴る、今日をもう一度愉しむショートショート!「きょうという奇蹟で一年はできている」

開業から1週間の宝塚ホテルを初見

2020-09-10 00:17:05 | コロナ禍日記 2020

 

ある日。

6月30日(火曜日)雨すごい風

 

 眠っている時から、雨の音がずっと耳に張り付いているみたいだった。起きても一日中、雨、風がピューピューと鳴きわめいている。すごい音。家の近くの木々の緑が、嵐の海を奏でる。

 ベランダの鉢がいくらか、動いている。いつもやってくる雀や野鳥が、一羽も飛んでこない、一体どこで息を潜めているのだろう。

 

実家の母に電話した。

「どう?すごい風なんだけど。昨年の台風を思い出すわ」

「そんなに降っていないよ、こっち」という。

「あら、よかったじゃない。こっちは雨と風ともにすごい。駅前や下の街の橋あたりは、もしかしたら水が浸いてしまうかもしれないわ」といった。

 

 一日中。大荒れだったが、夕方(6時半)になってようやく風が収まってきた。

 

 当初の予定どおり。明日、東京に帰るNへのエールをこめて、今年3月に閉鎖し、別地に移転した宝塚ホテルの開業(6月21日)を見に行くことにする。

 1926年(大正15年)、阪神モダニズムを形容する先進的な洋館ホテルとして開業した旧宝塚ホテル。急勾配の切妻屋根とアールデコ洋式を取り入れたクラシック調ホテルで、樹齢約130年のクスノキが中庭に面した大理石張りのロビーから、客室からよく見えた。元々古いホテルがすきなのだが、とりわけ思い入れが多い、思い出あふれる良いホテルだった。ちなみに、六甲山ホテルは宝塚ホテルの別荘というコンセプトで、同じ古塚正治氏の手によってほぼ同時期に建設されたそう。そんなことに、思いを馳せながら電車に乗っていた。そして…。


 あら? おもいのほかホテルは小さい。

 外観はヨーロッパの古城のようで素敵だが、ロビーに入った時、なにか想像とは違う違和感というか、うすい印象を感じた。オープンから1週間のせいか、調度品がほとんどない。大理石張りのロビーから深紅の絨毯が敷き詰められた大階段、そしてアールデコ調の手すり(芯は合板)。よく似ているのだが、おもちゃみたいな気がする。最近の新築マンションみたいなホテルだと正直、見えた。まだ格式が、伝統がないからだろうか。慣れないスタッフの問題か。

 1階からは期待していた武庫川に面した景観も見当たらない。これから、、、かな(笑)。







 

 まぁ。最初に感じた微妙な違和感も、何度か足を運ぶうちにきっと払拭されてだんだんと慣れてしまうのだろう。好きだったものを買い直して新調したときみたいに。

 

 2階のダイニングルーム、アンサンブルで簡単な洋食のコースをいただく。

 ここは近代的で広々とし居心地がよかった。胸をなでおろす。






 

 コーヒーとデザートをよいです、とストップしてもらい、1階のラウンジ「ルネサンス」でサマーカクテルを飲んだ。

 マンゴーをベースにした、ココナッツシロップとパイナップル味を重ねたフルーティーなカクテル。それほどお高くはないし、おいしかった。

 Nはバラが浮かんだ、ライム&ミント入りの「ローズモヒート」。

 

 嵐の日の訪問なので、大人の目をぬすんで出かけている悪い子みたい。ちょっとだけ後ろめたい、修学旅行を抜け出して来たような冒険みたいな気持ち。夜9時、急いで電車で自宅に帰る。

 



最新の画像もっと見る

コメントを投稿