問わず語りの...

流れに任せて

映画『サンセット・サンライズ』

2025-02-05 04:19:06 | 映画

 

 

宮藤官九郎脚本だし、舞台が三陸だし、これは当然東日本大震災が物語の軸になるだろうと思っていたし、実際その通りでしたが、

 

 

予告編の印象では、コメディ寄りの物語かと思っていたら、これがなかなか……。

 

 

 

時代はコロナ禍が最も激しかった頃。東京の大企業に勤めるエリート・サラリーマン、西尾晋作(菅田将暉)は、良くも悪くも空気が読めない、人の心が今一つわかってない。でも悪い奴じゃない。基本的には純粋で優しい男。

 

 

コロナの影響で仕事はリモート。ならば東京にいなくてもいいじゃん。

 

 

田舎で大好きな釣りでもしながら楽しく暮らしつつ仕事がしたい。そんなときに見つけた物件。

 

 

三陸の海沿いの一軒家で、家具家電一式揃っており、即入居可。しかも家賃は

 

 

6万円!

 

 

晋作は一も二もなく飛びつきます。

 

 

 

田舎の人は東京もん=コロナ持ってると思い込んでいるので、貸家の大家である関野百果(井上真央)から、2週間は家から出ないように言われますが、

 

 

人に会わななければ、魚に会うのはいいよね~。と無茶苦茶な理屈をつけて釣りをするために外出してしまう。

 

 

当然人に会わずにいられるわけもなく、隣のおばあちゃんとすぐ顔見知りになり、あげくに居酒屋にまで寄っちゃう。

 

 

とまあ、こんな感じで、出だしはコメディ・タッチで展開していくのですが

 

 

これが中盤以降

 

 

涙無しには観られない展開になっていく。

 

 

もうね、脚本が見事過ぎます。クドカンさん、素晴らしいわ!

 

 

田舎の東北人気質も、かなりデフォルメされているとはいえ、確かにあるあるだなと思えるし、決して田舎者を馬鹿にしたような表現にはなっていない。

 

クドカンさん自身、宮城県若柳町という、決して大きいとは言えない、田舎の小さな町出身だし、そうした東北の田舎人の気質はよくわかっているし、それに対する深い愛情が感じられて、まったく悪い感じはしなかったです。私はね。

 

 

一方で菅田将暉等が演じる東京の人たちの視点もちゃんと描かれてる。普段は震災のことなんか忘れているけれど、いざ実際に被災地に赴いて地元の人と接すれば、いやでも意識せずにはいられない。

 

 

でも具体的に何をすれば、どうすればいいのかわからず、当惑してしまう。

 

 

この辺りは『あまちゃん』でも描かれていましたね。

 

 

宮藤官九郎さんは東北出身だけど、震災発生時には東京にいて被災地にはいなかった。

 

 

だから、被災した人たちの気持ちは、本当にはわからない。そんな思いがあるようです。

 

 

だからクドカンさんは、東京人の視点を常に描こうとします。

 

 

東京の視点と被災地の視点と両方を描きながらも、決してどちらかを上げてどちらかを下げようとはしない。

 

 

「わからない」ってことを、分かり合うしかないんじゃなかろうか。そうすることでしか、お互い先へは進めない。

 

 

なにかそんなことを、描いていたような気がします。

 

 

竹原ピストルさん演じる居酒屋の主人のセリフ。「見ててくれればいい」が心に来ます。

 

 

これはほっといてくれという意味ではないです。なんというか、

 

 

「見守っていてくれればいい」というような意味でしょうか。

 

 

 

震災から10年以上経って、あらたな問題も発生してます。若い人たちは仕事を求めて都会へ出て行き、残ったのは年寄りばかり。その年寄りも亡くなってしまえば、空き家ばかりが増えて行く。

 

 

その対策として、空き家を貸家にして都会の人たちにセカンドハウスみたいな感じで貸し出す。

 

 

でもこれだって言うほど簡単ではない。田舎を捨てて都会へ出て行った人たちも、自分が生まれ育った家をいざ貸し出すとなると、子供の頃の思い出、親への想いなどが沸き上がってきて、貸し出しを躊躇してしまう。

 

 

田舎を捨て年老いた親を置いていったことへの罪悪感とか、様々な思いがあるのだと思う。だれも悪くない。みんな生きて行くために仕方がないことだった。でも…。

 

 

そんな複雑な想い。クドカン脚本はそんな人々の複雑な想いを丁寧に描いていく。もうね

 

 

涙なしには観られません。

 

 

 

一方で、地震があって津波が来ても、それでも内陸への移住を拒み続けるお年寄りの気持ちもちゃんと描いてる。あらゆる人たちの視点、想いを縦横に丁寧に取り上げて展開されていく物語。この脚本

 

 

完璧ですわ。

 

 

 

俳優陣が素晴らしかったですね。主演の菅田将暉さん。ホントにこの方は上手い!良い俳優だなと改めて思いましたし

 

 

大家さんを演じた井上真央さんも良かった。

 

 

竹原ピストルさんや三宅健さんなど、皆さん東北の田舎人に見事に成りきっていたし、なにより驚いたのは方言です。東北人の私から見ても、ほぼ完璧な方言でした。皆さん相当練習したんでしょうね。ほとんどネイティブといってほどの出来でした。

 

 

白石和子さん演じる近所のおばあちゃんの佇まい。それとなんといっても中村雅俊さん!ご自身は宮城県女川町出身ということもありますが、東北の港町の元気の良いお爺ちゃんを見事に演じていたし、このお爺ちゃんが震災を語る場面。深刻になり過ぎないよう、適度な笑いを取り入れながらも、心に深く来るものがあります。

 

 

 

過去を引きずったままでもいい。引きずったままでもいいから、それでも前を向いて、今とこれからを、今からこれから始まる新しい人生を

 

 

生きて行こうよ。

 

 

そんな感じの物語。

 

 

 

これ、良い映画です。こんなに素直に良い映画だと思えた映画は、久しぶりかも。

 

 

これは万人に推せます。是非にも是非にも

 

 

 

御覧あれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コメント
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