ドイツの料理書(Das Kochbuck des Meisters Eberhard ---1400)を開く前に、古代インド医学の影響を受けている古代ギリシャの体液病理説が中世ヨーロッパに入り、どのように変化したかを先に説明しておきましょう。最初に下の絵をご覧ください。
この絵はエル グレコの “無原罪のお宿り” ですが、画面中央よりやや上に父なる神の三位のひとつである “聖霊が放つ非常に神秘的な光” を描き、超自然な全体の雰囲気を演出しています。絵が示すように、神は天上の第五元素が存在する場所で光として存在しているのです。四元素で成り立っている現世に舞い降りるや四元素の影響を受けて、神や天使の姿となって神はその姿を現します。
四元素説はギリシャ時代にすでに唱えられていた説です。アリストテレスは宇宙論の中で、地球の周りには,月,水星、金星、太陽、火星などの惑星が回り、全てを含む天体の間を完全元素である第五元素(エーテル)が、満たしていると考えました。惑星が回る一番外にはこれらの天体を回している大きな力を持つ ”ある者” が存在していると説いたのです。中世のキリスト教神学者であるイブン スィーナーやトマスアクィナスらはその者こそ ”神” であると考えたのです。
地球上に存在する土、水、空気、火の四つの元素から地球上全てのものが創られ、土には寒と乾の、水には寒と湿の、空気には湿と熱の、火には熱と乾の要素があるとアリストテレスは考えました。
アリストテレスの理論による四元素の関係図。
キリスト教会側に立てば、“全ては神の摂理よって起こり、その限りにおいて、起こりうる全ての事象は一つの宇宙の枠内にある”と言うでしょう。即ちこの世の中に、時間の経過によって起こる事象は全て“天地創造から最後の審判に到る時間軸の中で経過する。”と教義付けたからです。これとアリストテレスの四元素説が合体するとどうなるでしょう。
上の絵はベリー公のいとも豪華なる時祷書の中の黄道十二宮人間です。
土には秋と黒胆汁を、水には冬と粘液を、空気には春と血液をそして火には夏と黄胆汁を関連付け、四つの各元素には星座を当てはめ人体の各部位と星座を結びつけたものを絵で示しています。これによって手術の場所や時間を判断しました。
人体に起こりうる全ての事柄が、病気、身体の成長、老いそして死が、神の意志に委ねられているというのです。人の一生が神の意志の下にあるということは、取りも直さず魚も,鳥も、獣も、植物も、神に背いたデーモン(怪物)すら、全てが神に支配されているということです。
キリスト教会は天地創造から最後の審判までの時間を全て掌握しているのですから、不可思議な現象や、理解できないことは存在しないのです。全ては神の摂理によって起こっているというのです。
言葉を変えて端的に言えれば、全ての存在は一つの宇宙の枠内にあると言っているのです。黄道十二宮人間をもう一度見てください。人間の内臓すらも天空に存在する星座に結びついて、その背後に存在する神の意志で動かされているのです。
以上がフランスの、およびその文化圏にある国々の四元素説です。それでは次に移るとしましょう。
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