Common Cold Ronald Eccles著, Olaf Weber Springer Science & Business Media, 2009から。 『』内はヒルデガルトの“Physica”からの引用です。
『風邪や咳にはタンジー※1(tansy ( Tanacetum vulgare) をスープ、ケーキ、肉と一緒に取ることを勧めます。オランダフウロ※2(Erodium cicutarium、Redstem filaree、別名redstem filaree, redstem stork's bill, common stork's-bill or pinweed,)、アナキクルス・ピレスルム※3(Anacyclus pyrethrum 、Mount Atlas)、ナツメグの粉末を一緒に吸入すると苦痛が和らぎます。』
ヒルデガルトの病気の理論は、古代の体液性病理説とほとんど変わりませんでした。
とりわけ、複合医学の本(Causae et Curae" 『病因と治療』(1151 - 1158) は、ガレンの理論を反映しています。
『風邪は寒気や脳内の湿り気のせいで起こり、やがて毒になるので追いださなければなりません。すなわち、人は宇宙の反射にすぎません。空気の中に存在する星も又この方法で清めるのであって、地球も又その汚れ、四つの悪臭のする物質を取り除くのです。』
ヒルデガルトはくしゃみを体の自己浄化メカニズムであると見ていました。
『人の血管を流れる血液は活発で速いわけではなく、むしろ眠っている時のようです。
体液が早く流れず、緩慢なとき、魂はこのことを関知してくしゃみで身体を揺らし、身体の血液を流すのです。体液は再び動き出し正常な状態に戻すのです。つまり、嵐や洪水によって水が動かなくなった時、腐敗が起こるのです。
同様に、くしゃみをしなかった場合や、くしゃみをして鼻の中をきれいにしないと、人は内部が腐敗します。』
体液が減るのを防ぐためにヒルデガルトは、医学書の中で、幾つかのレシピを推奨しています。例えば、『フェンネルとディル※4を加熱し、その蒸気を吸入し、残ったハーブをパンと一緒に食べなさい。加熱した松の木からでる煙は鼻の粘液の流れを良くします。。灰から灰汁を作り、それを使って頭を洗う事ができます。』
12世紀と13世紀になると、法王は公会議に基づく布告を出し修道院における治療行為を禁じたので、ヒルデガルトが修道院での治療の最後の施術者となりました。聖職者が治癒を実践することは禁じられたのです。治療行為は、学校や大学に移されました。
※1タンジー(Tanacetum vulgare、ヨモギギク、別名common tansy, bitter buttons, cow bitter, golden buttons.キク科の多年生草本。)ヨーロッパからアジアにかけて分布。古代ギリシャ人が薬用に栽培したものとして最初に記録されました。西暦8世紀には、シャルルマーニュのハーブガーデンで栽培され、スイスの聖ガリ修道院のベネディクト会の修道士によって栽培されました。腸内の虫、リウマチ、消化器系の問題、発熱、びらんの治療、はしかの発生に使用されていました。中世以降、中絶に使用され高用量が使用されましたが、適量使用し、女性の妊娠を助け、流産を防ぐためにも使用されました。15世紀、四旬節に魚や豆類と一緒に食べ、鼓腸を制御し、魚を食した結果生じる腸内寄生虫を防ぐという目的で食したと思われます。葉をカスタードプリンやケーキにごく少量用います。
花を利用する場合は、黄色い花頭を夏の終わりから晩夏にかけて摘み取ります。香りはローズマリーを思わせるカンファーの香りがあります。葉や花は大量に摂取するとけいれん、嘔吐、および子宮からの出血を引き起こす場合があります。重篤な場合、呼吸停止や多臓器不全に至り死亡することもあります。揮発性油にはツジョンを含む有毒化合物が含まれており、けいれんの他、肝臓や脳の損傷を引き起こします。タンジー種に含まれる揮発性油は、接触性皮膚炎を引き起こす可能性があります。内服すると油成分が肝臓と消化管で分解され、内部寄生虫に有毒な代謝産物が生成されるので何世紀にもわたってタンジー茶は寄生虫を駆除するために薬草学者によって処方されてきました。又、節足動物に対しても非常に毒性があります。人体に用いることは避け、その香りを楽しむか、虫除けに使うのが無難です。
オランダフウロ https://www.ootk.net/cgi/shikihtml/shiki_4235.htm
※2 オランダフウロ(Erodium cicutarium、別名redstem filaree, redstem stork's bill, common stork's-bill or pinweed)
ヨーロッパやアフリカ、西アジアに分布しています。柔らかいうちは全て食用になり、鋭いパセリに似た味がします。ピンクの花は蜂蜜の貴重な供給源になります。 ズニ族(Zuni、アメリカ南西部に住むアメリカインディアン)の間では、噛んだ根の湿布剤をびらんや発疹に使い、腹痛時に根を服用します。
※3 アナキクルス・ピレスルム https://yoteiniwa.exblog.jp/9457376/
※ディル4 Tacuinum Sanitatis, Dill フィレンツェDeutsch: Abbildung von Anethum graveolens 14. Jahrhundert ( Dillはラテン語でAneti )
※フェンネル4 Cod. Ser. n. 2644, fol. 41v: Tacuinum sanitatis: Feniculus A woman harvesting fennel Österreichische Nationalbibliothek - Austrian National Library
教皇の布告がなされたずっと前から、すでに10世紀にサレルノ医学学校は、ヨーロッパを代表する地位にありました。多くのテキストはトレドで翻訳され、後にイタリア南部の町では、さまざまな古代アラビア語の資料がラテン語でも利用できるようになりました。
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