この騒動がこの後、どんな顛末を迎えたのかはよくわかっていない。
どうせミルヒがなんだかんだと騒いで終わらせたのだと思うが、当のミルヒが忙しいらしく、わしに会いに来なかったし、わしも誰かに尋ねようとはしなかったので、結局はわからないままだ。
あの夜わしの身に起きた奇跡の謎もそう。ロイドのお陰だとはなんとなくわかるが、魂のない彼がどうやって力を貸してくれたのか。何故貸してくれたのか。謎はすべて闇 . . . 本文を読む
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気がつけば、走っていた。
どこをどう、なんてアンナは覚えちゃいなかった。
ただ、走らなければならない。走って、走って、走り続けないと、追いつかれてしまうから。
これが夢であることは承知の上だ。きっと、ほっぺをつねれば痛みとともに目も覚めるに違いない。だが、覚めれば笑い話になるという夢ではない。立ち止まれば、追いつかれれば、喰われてしまう。闇に潜む、朱い目をしたアレ . . . 本文を読む
誰かが云った。
現世に舞い戻ったのは、悔いがあるからだ、と。
仮にそれが正しいとして、わしの悔いは一体なんだろうか?
その悔いは、晴らすことが出来るのだろうか?
答を得る為に、わしは夜の街に歩を進めていた。
いつものように用心しながらのことだが、不思議なことに今夜は異様に人気がない。影を見ないどころか、声さえ聞こえてこない。
訝しみながらも、チャンスを逃さぬように足を速める。
余計 . . . 本文を読む
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アンナは大きなため息をついた。
部屋にいるのはひとりだけ。さして広くはないが自分だけの部屋。壁に掛けてあるのは観光客相手に売られていた安物の、けれどもお気に入りの風景画。大好きな本が入っている小さな本棚と、愛用の勉強机はお父さんが作ってくれたもの。枕元に置いてある白い熊のぬいぐるみは、友達からの誕生日プレゼント。好きなもので囲まれた、心安らぐ空間。
だからつい、気が . . . 本文を読む
足音が聞こえてくるのは、二つ手前の角を曲がった辺りからだ。
商店も露店も出ることのない裏通りだが、大通りと大通りを繋ぐ隠れた近道なので人通りは案外多い。大勢の足音の中からでも目当ての音を聞き分けられるのは、軽やかに跳ねるような足取りと規則正しい生活リズムのお陰である。
毎日決まった時刻に訪れるそれは、他の足音のように疲れているのでも急ぎすぎているのでもない。明日に希望を抱き、日々を楽しんでい . . . 本文を読む
今日の一日の始まりはとんでもないものだった。
正確には、昨日の夜からとんでもなかったのだが。
昨日も電気をつけっぱなしで寝た。
新作の最後の推敲をしている最中だった。
当然疲れてのことであるはずなのだ。途中一度も目を覚まさなかったし。
なのに今朝は目覚まし時計がなる三分前に目を覚ました。
どうかと思うんだよね、これって。
そんな疲れているんだからさ、寝坊したっていいじゃん。
も . . . 本文を読む