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感想です。

映画『ボストンストロング ダメな僕だから英雄になれた』/『stronger(原題)』に敬意を表したい。

2020-11-09 | 映画

原題 stronger
監督 デヴィッド・ゴードン・グリーン
脚本 ジョン・ポローノ
原作 ジェフ・ボーマン、ブレット・ウィッター
製作 2017年
上映時間 120分 PG-12
出演 ジェイク・ギレンホール、タチアナ・マスラニー、ミランダ・リチャードソン、リチャード・レーン・ジュニア、ネイサン・リッチマン

概要 2013年ボストンマラソンを狙った爆破テロ事件の実話。パトリオットデイ(愛国者の日)にアメリカで催されたポストンマラソンを狙った爆破テロ事件を映画化。両脚を失った27歳の被害者ジェフ・ボーマンを描いた実話で、彼の回顧録を原作としている。

【以下ネタバレあり】

写真は映画と関係ありません

「ダメな僕だから英雄になれた」?

そんなに「ダメな僕」じゃないけど・・・。仕事でヘマをしたり、待ち合わせに来なかったりする。しっかりした大人じゃないから彼女が愛想尽かすのもわかる。でも被害に遭った彼の元へ家族は集結し、友だちや先輩とも仲がよく、会社(コストコ)にも大切にされている。頼りないけれど、いいヤツ。たくさんの仲間に囲まれた平凡な男だと思う。

いきなり両脚を失って、すぐに前向きに生きられるか。

自暴自棄になってもいいのに以前と変わらないように振る舞う。ユーモアで切り返せるだけで立派。人前に引っ張り出されて、強さの象徴されるのが負担になっている。この辺りの演技や演出に無理がなくてうまかった。悪い人たちではないのだけど親戚たちは騒がしく、対照的に孤立感を深める彼の心の傷に気付くのは元彼女のエリンだけ。素晴らしい彼女なのに、それだけではどうにもならなくなっていくところがリアルだった。全てを捨ててジェフに寄り添ってくれる彼女をひどく傷つけてしまう最悪な状況になってしまう。

強くなるきっかけは思わぬところからやってくる。

テロ事件で救助してくれた男性からの気の乗らないインタビューを受ける。男性は息子2人を戦死と自死で失い、鬱病やPTSDに悩む人たちのために活動しているのだと話を聞き、ジェフの表情が変わった。男性も被害者で深い傷を負っている。ジェフは自分の傷しか見えていなかったと気付いたのかもしれない。自分の痛みを誰かと共有することで、誰かを救えるし自分も救われると感じたのではないだろうか。

ジェフは再び英雄として人々の前に立つことになる。中盤アイスホッケーの試合で英雄に祭り上げられたときは戸惑ったような笑顔をしていたのに、ラストの始球式ではしっかりとした意志でその場にいて、楽しんでもいるようだった。ジェフの姿に勇気づけられたという若者に出会う。子供にやさしく接する顔が心からの笑顔だ。周りが変わったのではなく、彼が成長したのだ。

辛い状況になったとき、気持ちの持ちようだとよく言われる。自分ひとりで乗り越えるのは困難だから、助けを求めるように勧められる。しかし実際には誰が助けてくれるかはわかるものではない。ジェフは会いたくないと思っていた男性と話したのをきっかけとして立ち上がれた。母でも恋人でも救えなかったのに、不思議だなあ。人生捨てたものではないと感じた。ジェフはボストンストロングの象徴として人々に会い、人を変えていく存在にまで成長した。

弱い僕が、強く成長したことに拍手を送りたい。

義足で歩けるようになって彼女に許してもらいに行く。サボっていたリハビリにちゃんと通ったのだろう。義足がたくさんの人に支えられ、それに応えたことの象徴に見えた。強さを讃えているのでなく、共に生きることが人々を強くすると訴えているのだと感じた。他人同士が助け合う。支え合い強くなれる。ボストン市民の強さを感じ、観賞後ほっと安心できる作品だった。

原題『stronger』をこころにとどめたい。

『ボストンストロング』はハッピーエンドになっているが、このボストンのテロ爆破事件を捜査側から見た映画『パトリオットデイ』は不安を残すものとなっている。別の面もあることを忘れてはいけない。両方の映画を見て、テロに対して考えを深めることができた。

 

『ボストン ストロング ダメな僕だから英雄になれた』

 

>『ボストン ストロング ダメな僕だから英雄になれた』公式サイト