「手作りマスク」
1918年から1919年にかけて広がったインフルエンザの大流行はスパニッシュインフルエンザ(スペイン風邪)と呼ばれる。本書はアメリカから見たパンデミックの様子を描き、分析している。
スパニッシュインフルエンザの拡大は、第一次世界大戦のさなかであったため、すぐには公にされなかった。中立国であるスペインに上陸してようやく情報が発信され、その名が付いた。スペインが発生源ではないし、突出して被害が大きかったわけでもない。
コロナ禍の現在、本書を読むと100年前のパンデミックが遠い過去の災いとは思えない。ウィルスに対して、人間という生き物がこんなにも弱いものだったのだと思いしらされる。人とウィルスの戦いは終わっていなかったと知る。
未知のウィルス
インフルエンザウィルスによる感染症に弱いのは幼児や高齢者である。スパニッシュインフルエンザは驚くべきことに、健康で丈夫なはずの若者がもっとも多く命を落とした。未知のウィルスは、誰を狙うのかわからないのだから恐ろしい。新型コロナは不安を煽りすぎだったと批判する声もあるが、あのときは正体がわからなかったからあの対応でよかったんだと、読むとよく分かる。
空気感染のため一度に大勢が感染する。感染者を見つけ出し完全に隔離をするのは至難の業で、船内の中で感染者が出ればパンデミックになり、一番元気な患者が重病の患者を世話をする状況に陥る。治療どころか介護も受けられない、死亡率が低くても大混乱する。ベッドの確保もできないので患者の隔離は無理、兵士たちが換気の悪い、不衛生な状況に置かれ、感染後も劣悪な状況にあったため死に至ったともいえるが、免疫が過剰反応するサイトカインストームが若年成人の死亡率を高めたともいわれている。
「配布マスク」
100年前もマスクが論争になった。
アメリカ人がマスクをしたがらないのは100年前も同じで、自由を主張する運動が起こった。マスクするしないで自由を奪われると叫ぶのは大げさだなと思っていたけれど、私が考える以上にマスクをするのは厳しい条件のようだ。スパニッシュインフルエンザが流行りはじめたころ、アメリカ人もみんなマスクをした。因果関係はわからないが効果が出たように見えた。しかし不快だと気づき、次に流行り出した時はしなくなった。たしかに夏マスクを続けるのは私もストレスになった。日本ではみんな頑張ってマスクをしていた。同調圧力のためと言われるが、感染症対策になると信じている人が多いからだと思う。何をどこまですれば感染対策によいのか本当のところは分からない。それは今も100年前も同じだなあと思う。
何を優先するか
アメリカでは戦争を優先するため、スパニッシュインフルエンザを「みんなが罹り誰も死なない」病気として軽んじられたという。愛国心を盛り上げるため大々的にパレードなどをして大騒ぎをした。それが優先されるべき事だったとは思えないが、何を優先するかはとても難しい判断ではある。人の動きを止め病気を完全に押さえ込むか、他のことを優先するか。もっとも大切なのは正しく恐れることだといわれる。社会に恐怖が広がるとゼロリスクを求める風潮につながり危険だ。例えばコロナ警察はやりすぎ。冷静に見極めるのが重要だとわかるので本書をおすすめしたい。
「正しく恐れる」広報の力
日本でマスクによる感染症予防が習慣化されたのはこのスパニッシュインフルエンザの頃からという。マスク着用を薦めるポスターには「マスクをかけぬ命知らず!」とうたわれていた。広報は今も昔も力を持っている。上手くバランスをとって新型コロナウィルスと共存できるように願っている。