あすか塾

「あすか俳句会」の楽しい俳句鑑賞・批評の合評・学習会
講師 武良竜彦

「あすか」誌 2023年10月号 作品鑑賞と批評

2023-10-14 15:41:50 | あすか塾 2023 令和5 1

 

「あすか」誌 十月号 作品鑑賞と批評  

 

 《野木メソッド》による鑑賞・批評

「ドッキリ(感性)」=感動の中心

「ハッキリ(知性)」=独自の視点

「スッキリ(悟性)」=普遍的な感慨へ

 

◎ 野木桃花主宰の句「山上湖」から

 

淡海路や波紋のやうに秋の雲

秋涼し軋み鳴きして湖上線

新涼や碧く鎮もる山上湖

遠近に赤とんぼ湧く湖上駅

秋気澄む湖にせり出す湖上線

 

 秋の吟行の旅の連作でしょう。湖上泉とは大井川鐡道井川線ことですね。愛称は奥大井恋錠駅。そこに架かったレインボーブリッジにある駅が奥大井湖上駅です。エメラルド・グリーンの湖に浮かぶ孤島に駅があり、湖とそれを囲む山並みが一望できます。陸の孤島のようで秘境駅の一つに数えられています。その様子を詠まれたこの連作は的確で鮮やかな描出表現で旅情に誘われますね。皆さんも小旅行をされたときは、このような連作を作って記録するといいですね。

 

〇「風韻集」から 感銘秀作

 

落ちてなを華やぎてをり夏椿          金井玲子

 後は茶色に変色して枯れるばかりの落ち椿の花に、それでも最後の輝きを持たせた作者のやさしい視点が心に沁みますね。

 

星の井や風の涼しき切り通し          金井玲子

 「星の井 星ノ井」は鎌倉市坂ノ下にある星井寺の前、極楽寺坂切通にある井戸の跡ですね。「星月の井・星月夜の井」とも言われ、鎌倉の観光名所とされた良質な水が湧いたり、伝説が残ったりしている井戸で、「鎌倉十井」の一つです。満天の澄んだ夜空の星を映しているような心象のある言葉ですね。それをそのまま彷彿とされる詠み方がいいですね。

庭に干すてびねりの壺柿若葉          近藤悦子

 陶芸の「手びねり」とはその名の通り、自分の手ひとつで作っていく技法です。もちろん、道具として手回しロクロを使ったりするのですが、電気やモーターなどは一切使わず、手でひたすら作ってゆきます。その分、端正な形を作るのが難しくなりますが、指跡のゴツゴツ感や微妙なゆがみなどに作り手の個性が出ますね。まるで自分を愛おしむように作者が眺めているようすが微笑ましく浮かびますね。

 

白装束の駆けおる月山大夕立          近藤悦子

 ゆっくりした登山の景ではなく、何やらユーモラスな景が月山という霊山の雰囲気を騒がせているような、面白い一場面を切り取った句ですね。

 

ひとりだけの錨を下ろす夏の芝         鴫原さき子

 自分をとりもどす静かなひとときが、巧みな比喩で表現されていますね。

 

会葬の緑雨の傘をたたみけり          鴫原さき子

 お葬式に参列したときの、悼みの思いが伝わる表現ですね。「緑雨の傘」が見事。

 

うまごやし野面かがよふ風の声         摂待信子

 「野面かがよふ」という古文的な表現に詩情がありますね。

 

父母に詫びてばかりの墓掃除          高橋みどり

 みどりさんは心の繊細な動きを掬い上げるのが巧みですね。

 

村の墓しばし華やぎ盆用意           高橋みどり

 墓場というどちらかと言えば暗くて静かな場所を、まるで楽しいお祭りのように飾る、地域文化が活写されている句ですね。

 

生きるとは若葉照る中そよぐ中         宮坂市子

 市子さんの実存俳句の傑作ですね。

 

薔薇一本選ぶとしたらけふは白         宮坂市子

 薔薇が特別なのではなく、そういう心構えに誘う大切な日なのですね。表現が見事。

 

異次元へ弾けるつもり鳳仙花          矢野忠男

 日常を突き抜けてゆくような表現の句ですね。

 

盆踊り突かけ草履の緒がきつい         山尾かづひろ

 夢中になって楽しく踊っているのが伝わる句ですね。

 

爪紅や透析解かる小半日            山尾かづひろ

 透析治療に医院に通う方の苦労は余人には分かりにくいものですが、その当事者のかづひろさんは、ただ上五に「爪紅」の花を置いた俳句で控え目に表現して、心に沁みますね。

 

麦笛の少年日暮れを引き寄する         稲葉晶子

 「日暮を引き寄する」という表現に詩情がありますね。

 

またたびの白き遠近峠越え           大木典子

 山野の花「またたび」の鮮やかな白、それを旅情に添えて、詩情がありますね。

 

西行の松は何処ぞ梅雨の月           大木典子

 「西行の松」は和歌短歌が好きな人は既知のことばですね。「西行戻しの松公園」が松島にあります。西行法師が諸国行脚の折り、松の大木の下で出会った童子と禅問答をして敗れ、松島行きをあきらめたという由来の地。 この公園は桜の名所で、展望台からは桜と松島湾の景色が一体となった、他に類をみない花見が味わえます。この句の「何処ぞ」は探しているのではなく、そう表現することで回想しているのですね。

 

ところてん終りの見えぬ愚痴を聞く       大澤游子

 「ところてん」のずるずると続いて押し出されるさまを、他人の愚痴を聞く時間のようすに喩えた面白い句ですね。

 

捩れても天指す気骨捩り花          大本 尚

 捩り花は螺旋状の形をしていますね。それを「天を指す」という志向性という意思のようなものを添えた詩的な表現ですね。

 

吾を向くひともとの百合挑むかに       大本 尚

 百合はラッパ状の花で、「鉄砲百合」という名の種類もあるように向かっているような雰囲気があります。それを自分に挑んでいるかのようだと内面的な表現にして詩的ですね。

 

結界に水の匂へり青葉闇            奥村安代

 神社仏閣の聖域の「結界」ということばで、その場の空気感まで取り込んだ表現の句ですね。

 

文机に何もなき日よ月涼し           奥村安代

 デスクワークに勤しんでいる人の感慨を見事に詠み込んだ句ですね。

 

緑雨かな記憶の襞のほぐれ来て         奥村安代

 思い出せず、ずっと気になっていたことが、鮮明に心に蘇って、わだかまりのようなものまで解れて行く様を詩情豊かに表現した句ですね。

 

〇「風韻集」から 印象に残った佳句

 

乱鴬の声の満ちたる能舞台           加藤 健

ねぢれ花幾度母を泣かせしか          坂本美千子

白南風の一番列車人まばら           高橋光友

升席に白地の浴衣艶めけり           服部一燈子

青山河故郷は胸の中にあり           丸笠芙美子

潮の香や風存分に鯉のぼり           村上チヨ子

強風に噴水の腰よろけをり           柳沢初子

植ゑ付けし夏の野菜に添へ木して        吉野糸子

薔薇匂ふ「あすか」創刊六十年         磯部のりこ

菖蒲湯をたててやもめの暮しかな        風見照夫

 

〇「あすか集」から 感銘秀作

 

死をまねて非戦の構へ毛虫翁          小川たか子

 反撃することだけが善なる方法だろうか、非戦の心とは武器ではない方法を選び通すことではないか、そんな作者の「非戦」に込めた想いが伝わりますね。

 

ねぢ花に止まり白蝶線となる          紺野英子

 美しい日本画のような、静謐な時空を捉えた巧みな表現ですね。

 

波乗りの海をなだめる腕かな          高橋富佐子

 「海をなだめる」というスケールの大きな表現が巧みですね。

 

洗はれて洗はれ出づる梅雨の月         滝浦幹一

 繰り返しの巧みな表現で梅雨の月のさまが見事に捉えられていますね。

 

さみしさは枝豆一人でつまむこと        丹治キミ

 寂しさという心情を枝豆をつまむ行為として具象化した巧みな句ですね。

 

寂びてなほ青空恋ふる泰山木          乗松トシ子

 泰山木の姿に自分の心境を巧みに詠み込んだ表現の句ですね。

 

送り火の燃え尽き夫の影を追う         林 和子

 夫に先立たれた人の心の動きを繊細に表現した句ですね。

 

青田風囁き合つてゐるやうに          村田ひとみ

 童話や児童詩のようなやさしい表現で青田風を表現した句ですね。

 

金魚鉢マティスのやうに窓に置く        村田ひとみ

マティスの絵のようだ、とは言わず、「やうに置く」という自分の心の動きに添わせた表現に詩情がありますね。

 

七夕や順繰りの幸噛みしめる          望月都子

 順繰りに巡りくるものにはいろいろある。まず一番大きなものは季節のめぐりだろう。それぞれの季節がわたしたちにみたらす「幸」のことを、この句は詠んでいるのでしょうか。

 

しんがりは昭和一桁登山道           安蔵けい子

 「しんがり」は何かの最後部のことで、この句では登山者の列の最後尾のことのようですから、先に登っているのは自分より若い世代の人たちでしょう。体力が若い人についてゆけなくなった衰えを詠んだ句と解釈できますが、先をゆく後の世代を、高齢者として温かく見守っているような雰囲気も感じ取れる句ですね。

 

〇「あすか集」から 印象に残った佳句

 

ポケットに去年の切符秋の雲          飯塚昭子

猛暑かな日に二リットル二リットル       内城邦彦

縁側に猫の欠伸の涼しさよ           大谷 巖

土用入り地面につぐかに犬の舌         大谷 巖

逢いたくて蛍袋に灯をともす          大竹久子

水打ちて地球の熱を冷ましけり         大竹久子

蘭鋳の尾のふるへ見てときめきぬ        小川たか子

葭簀して街の噂に遠くをり           小川たか子

蝉しぐれ一つ鳴き止み個に帰る         小川たか子

風を呑み風に呑まるる青田波          小澤民枝

点ひとつ又てん一つめだか生る         小澤民枝

熱帯夜三時に朝刊入る音            柏木喜代子

子供らの鉢持ち帰る夏休み           柏木喜代子

荷を運ぶ蟻の一途さしたたかさ         金子きよ

鮎料理皿に残りし美しき骨           木佐美照子

梅雨晴や赤いエプロン六地蔵          城戸妙子

蓬莱壮マンボとフラの夏祭           久住よね子

白鷺や釣人の側ぴつたりと           斉藤 勲

つゆ草のそこだけ残し草を取る         齋藤保子

白芙蓉シネマ歌舞伎の玉三郎          須賀美代子

切り傷の残る額や梅雨明ける          須貝一青

十薬の十字に誓ふ夫のこと           鈴木ヒサ子

時の日の銀ぶら雨の時計塔           鈴木 稔

寝袋の顔出し天の川眺む            砂川ハルエ

五月闇黒船いづこ浦賀の海           高橋静子

尾瀬ヶ原木道染めて大夕焼           忠内真須美

足元に遠慮がちなる藪茗荷           立澤 楓

はたた神百余の鳥居くぐり来て         丹治キミ

向日葵は枯れてなおかつ背を伸ばす       千田アヤメ

煙火音夏の神事の合図なり           坪井久美子

七夕笹野菜売場のかたはらに          中坪さち子

海開きセイバーの赤帽沖に消ゆ         成田眞啓

汗だくの婦警の寸劇特殊詐欺          西島しず子

物売の船の寄り来る川開き           沼倉新二

早口のデビューしたての時鳥          浜野 杏

バタフライ出来て新たな水着買う        星 瑞枝

里山の古民家カフェの一夜酒          曲尾初生

着ることもなき水着ふと出して見る       幕田涼代

半夏生草今日も植田の隙間埋め         増田綾子

蝉の声聞かず抜け殻ばかりなり         緑川みどり

明け易し夢の続きが気にかかる         宮崎和子

恋路めく額紫陽花の坂の道           宮崎和子

 

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あすか誌 2023年10月号

2023-10-02 18:46:17 | 「あすか」誌2023年 令和5年

 あすか誌 2023年10月号

 

 

 

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