ギドン・クレメールの無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータ(全曲)が2005年10月5日にユニバーサルミュージックから発売されている(UCCE-9068/9)。この曲は、バッハが1720年(35歳)にケーテンの宮廷楽長に就任したときに作曲されたと考えられています。
ギドン・クレメールは解説書(藤井孝一:訳)の中で次のように述べています。
『紙の上にインクで書かれた黒い点や筆使いは永遠にそこに留まっている。その一方で、創造者のものであろうと、下僕のものであろうと、時は流れる。我々が生きるインターネット時代より遥か昔には、こうした小さな記号は何ギガバイトもの情報を伝えたものであった。しかも、今日我々がダウンロードできるようなものと違って、常に精神的価値に満ちていたのであった。我々がそれらに問いかける度、何かを伝え続けているのであり、同時に我々皆に対しても問いかけ続けるのである。』この演奏を聞くと、冷え切った肌を刺すような寒い、広い、しかもコンクリート打ちっぱなしのような殺風景な部屋の中で、孤高の世捨て人のような芸術家が、ひたすらバッハに畏敬の念を払いながら、また同時にバッハの家庭的な温かい人柄を想いながら、修行僧のように、ひたすら音符と格闘している姿が頭に浮かびます。今までの演奏家が、この曲をロマンティックに、あるいは力強く、ある意味で恣意的に作為的に演奏しているように感じるのに対して、クレメールはこの曲の持つ普遍的な、時代を超越する永遠の美しさを神々に捧げるように、敬虔で、崇高で、張り詰めるような緊張感を持って演奏している。
クレメールは解説書のなかで、バッハの永遠の価値を表現する優れた演奏家として、カザルス、グールド、またヴァイオリニストとしては、エネスコ、ミルシテイン、メニューイン、シゲティらの名前を挙げている。クレメールの演奏は、彼らの演奏に匹敵するのではないだろうか。
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