2004年11月にフリッツ・ヴェルナー指揮の教会カンタータと受難曲のCDセットがワーナーミュージック・ジャパンから発売されています(WPCS-11801/10)。3巻のボックスからなっており、第1巻、第2巻が教会カンタータ、第3巻が受難曲、クリスマスオラトリオ、ミサ曲ロ短調、モテット他になっています。以前から気になり欲しかったのですが、値段が高いので様子をみていたところ、最近、あるCD屋さんで第1,2巻が売れてしまい、第3巻しか残っておらず、思い切ってこれを買ってみました。フリッツ・ヴェルナーという名前も聞いたことが無く、1958~1968年の録音で、恐る恐る予備知識がないままCDを聞いてみました。最初は音も悪いし、歴史的価値以外に聞く価値はないのかな、と思ったのが第一印象でした。しかし、じっくり聞いてみると声楽のソロの部分はなかなか良く、全体的にテンポは遅いのですが、抒情的な感じで良いです。
CD解説者のニコラス・アンダーソン氏(訳:浅野尚行氏)によれば、バッハの教会カンタータの録音が活発になってきたのは、1950年代になってからで、最初にカンタータ録音の集成をつくろうとしたのは、トーマスカントルのギュンター・ラミンで、1950年に着手して1956年に亡くなるまでドイツ放送局で録音している。その後、ドイツのカントル兼指揮者達が録音したが、量的には十分なものではなかったようである。その後、1960年代から1970年代にかけて、バッハ・カンタータ録音の2大プロジェクトが行われ、一つがミュンヘンのカール・リヒターで、もう一つが今回のCDの指揮者であるシュツットガルト近郊ハイルブロンのフリッツ・ヴェルナーの録音である。ヴェルナーのハイルブロン・ハインリッヒ・シュッツ合唱団は今日の水準から見ればかなり大規模であり、アンサンブルの完璧さや声楽的な一体感に関しては、ライバルだったリヒターのミュンヘン・バッハ合唱団に及ばなかったこともあったようですが、その弱点をすばらしい当代最高のソロ歌手と器楽奏者達が十二分に埋め合わせている。ヴェルナーが起用したソロ歌手は大半がドイツ語圏出身者であったが、器楽奏者はフランスとドイツの連合軍だったようです。
現代のバッハ演奏は、オリジナル楽器の使用し、歴史的な研究に基づいた演奏方法で行うのが通例となっており、ヴェルナーらを初めとする先駆者達のバッハ演奏は時代遅れと考えられているが、かえってそこに魅力を感じる場合も多い。解説者はヴェルナーの録音を”作為や過剰な自意識を排した自由で新鮮な表現に到達している”、”舞曲に対して作為を感じさせない自然なリズム感を持っている”と表現しています。
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