「最近な もう古なってしもたステレオのな スピーカーコードを交換したんや。
もうちょいええ音にならんかな と思てな。」
「そうか、こんな映画あったな。トニー・レオンとアンディ・ラウの
インファナル・アフェアや 冒頭のシーンで スピーカーケーブルを変えて
蔡琴(ツァイ・チン)の歌を聴き比べるシーン。
それで どうやった?」
「それがな、思いもよらぬ拾いもんでな。こんなコード一本でこんなに変わるものかと驚いとる。
耳で聴いとんのに目をみはるとはヘンな例えやけどな、楽器のひとつひとつが立ち上がっとる、クリアに聴こえる。
音が前に出てくるちゅう感じや。それでじっくり聴いてみたのが
名盤 キース・ジャレットの ケルンコンサートや。
長い演奏に聴き浸ってた。もう何度も聴いてるのに、余りの感動に
スピーカーの前で拍手や。ライブでもないのにな。」
「そらよかった。ついでに サムウェアビフォー 聴いてくれ。
キースの若かりし頃や。イントロがベースではじまるやつや。
ボブ・ディランの曲、マイバックページ、これもええはずや。
「それも含めて いろいろ聴いてみよ。あぁ 今は一日中 音に浸っていたい気分や。
かたわらに 珈琲と煙草おいて目つむったら 私設 ジャズ喫茶や。至福の時や。」