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アメリカ人は正しいか――集団的自衛権を考える②

2015-01-21 21:49:05 | 政治・経済
 やや間が空いてしまったが、シリーズの第二弾となる。①にひき続いて集団的自衛権について考える。今回は、集団的自衛権にかぎらず、もっと広く、軍事力によって平和が実現できるかを考えたい。
 たとえば、イラクについて考えてみよう。昨日からメディアはイスラム国による(と思われる)日本人の人質殺害予告の話題で持ちきりだが、この人質事件に関するブログなどを見ていると、こんなことが起きるから日本は軍事力を持つべきだというような主張が見受けられる。しかし、本当にそうなのだろうか? 奇しくもアメリカのオバマ大統領は昨日の一般教書演説で対テロ戦争の成果を強調し、今後もそれを続けていくことを表明している。しかし、本当に武力で現在の中東情勢を改善することができるだろうか?
 そもそもイラクやアフガンの現状が、武力を行使した結果だということを忘れてはならない。
 イラク戦争の開戦理由は二転三転したが、当初は大量破壊兵器を保有している、とか、アルカイダとつながりがあるから、というようなこともいわれていた。いずれも後に否定されていることだが、その当時はその“大義”を信じている人もいただろう。ブッシュ政権は安全保障のためという理由でイラクを攻撃したのである。では、その結果世界は安全になったのか。
 また、アフガニスタンはどうか。NATOはその条約の第五条で集団的自衛権を規定しているが、それがこれまでに行使された唯一の例が9.11後のアフガン侵攻である。はたして、集団的自衛権を行使したことでNATO加盟国の安全は保障されただろうか?
 答えはノーだと私は思う。
 9.11テロ後の戦争がはじまって10年以上が経ってさえ、アフガニスタンとイラクは世界の難民数トップ2(ただしパレスチナ難民をのぞく)であり、イスラム過激派の動きはイエメンや北アフリカ諸国などに拡散し、むしろ活発化している。それらが、フランスで起きたシャルリ・エブド襲撃事件などともつながっている。また、東方面ではパキスタンでもイスラム過激派が勢いを増し、パキスタンを通り越してインドにまでアルカイダの支部が作られている状態だ(アルカイダはビンラディンの死後衰退しているともいわれるが、薄く広く拡散しているように私には思える)。これに対してパキスタンなどで米国が行う無人機攻撃は、むしろ反米勢力を勢いづかせているともいわれる……
 これが現実なのだ。武力を行使した結果、イラクもアフガンもまったく平和にはなっていない。むしろ、事態は悪化さえしているかもしれない。軍事力が平和を実現できるかについて語るのなら、まずこの現実を直視するべきである。米軍をはじめとする多国籍軍が政府を倒し、十万人を越える兵士が十年近くにわたって駐留し続けた後に残されたのが、イスラム国であり、いっこうに治安の改善しないアフガニスタンなのだ。
 いま日本で憲法9条や集団的自衛権について議論するのなら、その議論は「軍事力が平和を実現できていない」という現実を踏まえたものでなければならない。
 なるほど、たしかに軍事力が必要な場合はありうるかもしれない。私は、そのこと自体を否定しない。だが、軍事力を決して過大評価してはならない。それが持ちうる効力は、抑止という点でも、実際に起きている紛争を停止させるという点でもきわめて限定的であり、意図していたのとは逆の結果をもたらすリスクもある(しかもそのリスクはかなり高い)。純粋に実利で考えてみても、外交上のカードとしてそれほど有効なものではないのだ。そこを読み間違えて軍事力が絶対的なジョーカーであるかのように錯覚していると、アメリカのように幾たびも戦争の泥沼に陥るという愚をおかすことにもなりかねない。
 自民党中心の政府は、今度の通常国会で集団的自衛権に関する法整備を目指し、さらに将来的には憲法改正も視野に入れているという。はたしてそこでは、本当に現実を踏まえた議論が行われるのか。私は、強く疑問を感じている。