真夜中の2分前

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“お試し改憲”の欺瞞

2015-05-09 21:11:06 | 政治・経済
 前回に引き続き、今回も改憲問題について書きたい。
 憲法記念日の直後に、いよいよ自民党は、本格的に改憲にむけて動き出した。そのあらわれが、今月7日に開かれた憲法審査会である。この審査会において、自民党はいわゆる「緊急事態条項」にまず取り組もうとしているようだ。
 あちこちで指摘されているように、この緊急事態条項というのは口実にすぎない。自民党の狙いはあくまでも9条であり、その本丸を攻めるために、いわば外堀を埋めにかかったかたちである。いきなり9条に手を出すのは難しいから、まず反対が出にくいところで「憲法が変えられた」という既成事実を作ってしまおうというわけだ。大騒ぎにならないように、少しずつ警戒感を麻痺させながら、強権的国家主義体制を目指す――伊坂幸太郎氏の『魔王』の預言(本ブログ「魔王」参照)が実現しようとしている。これがつまり、麻生太郎氏のいう“ナチス式”というやつなのだろう。
 もっとも、当然というべきか、当の自民党の側はそうした見方を否定している。
 しかし、それが明白な嘘であることは、次の事実からあきらかである。今年の2月21日に改憲にむけた「対話集会」が再開された際に、同じ改憲推進本部の事務局長である礒崎陽輔首相補佐官は、「憲法改正を国民に1回味わってもらう。『憲法改正はそんなに怖いものではない』となったら、2回目以降は難しいことを少しやっていこうと思う」と述べている(朝日新聞電子版)。なんのことはない。自民党側がいくら否定したところで、その改憲推進本部の幹部はすでにそれを認めているのだ。この自民党の改憲推進本部なる組織については、そのトップをつとめる船田氏の資質に疑問があると以前書いた(本ブログ「道徳を語るなら」参照)が、それにしてもあまりにお粗末な頭隠して尻隠さずっぷりである。
 彼らのこうした姑息なやり口は、有権者には見透かされている。
 いくら足音を忍ばせたところで、その足音は聞こえている。その当然の結果として、世論調査などをみてもしだいに改憲反対という意見が増えてきているようだ。NHKの世論調査などは、この一年で賛否が逆転している。しかもこれは9条にかぎらず憲法を変えること自体に賛成か反対かという問いに対する答えである。中身以前に、憲法を変えるということ自体にこれだけ反対の声があがっているというのは、いかに自民党の考える改憲が支持されていないかという証拠といっていいだろう。
 また、改憲反対の声は、映画界や宗教界からもあがっている。その一部として、カトリックの日本司教団が今年の2月に発表したメッセージを引用して、この記事をしめくくろう。

 「戦後70年をへて、過去の戦争の記憶が遠いものとなるにつれ、日本が行った植民地支配や侵略戦争の中での人道に反する罪の歴史を書き換え、否定しようとする動きが顕著になってきています。そして、それは特定秘密保護法や集団的自衛権の行使容認によって事実上、憲法9条を変え、海外で武力行使できるようにする今の政治の流れと連動しています。他方、日本だけでなく、日本の周辺各国の政府の中にもナショナリズム強調の動きがあることにわたしたちは懸念を覚えずにはいられません。周囲の国と国との間に緊張がある中で、自衛権を理由に各国が軍備を増強させるよりも、関係改善のための粘り強い対話と交渉をすることこそが、この地域の安定のために必要なのです。」(カトリック中央協議会のHPより)