坂の中腹で待っていると、夫はすぐ戻ってきました。
家の周りは水浸しですが、少し坂を上ると何事もなく、無事に公民館まで行くことができました。
まだ台風は日本列島に上陸もしていない時刻で、避難してきた住人もまばらです。
「猫は入れますか?」
と受付で聞くと、
「すみません、猫ちゃんはダメなんです」
との答え。ほったらかしていくわけにもいかないので、
「とりあえず車の中でお弁当を食べよう」
と、朝から準備して置いたふかしイモと唐揚げとパンを食べます。
ここで夫が自分のリュックを忘れてきたことが発覚しました。みんなの食料を少しずつ分け合います。
ベジタリアンの息子にはイモとパンだけ。この子はいつも炭水化物まみれです。
夫が館内の様子を見に行きました。
「これから混んでくるから、場所は取っといた方がいいみたい」
と言うので、私と夫で場所取りに行きました。
人数分の畳をもらって床に敷き、配られた毛布を置いて、私は車に戻りました。
「トイレも借りられるし、疲れたら横になれるよ。どうする?」
と子供たちに聞くと、
「俺はシロと車にいる」
と息子。夫に荷物の番を頼んで、私と子供たちはとりあえず車に残ることにしました。
「ニャア」
それまでおとなしくしていたシロがか細い声で鳴きました。
「よしよし」
娘が自分の手のひらを皿がわりにしてケージに水とカリカリを差し入れてやりました。
「食べた?」
「うん」
しばらくおとなしくなったシロがまた鳴きました。
「ニャア」
「出たいのかな」
「車の中だけならいいんじゃない?かわいそうだよ」
「俺ならいくらでも引きこもってられるんだけど」
要らない自虐ネタをかましてくる息子をさりげなく無視して私はシロをケージから出してやりました。
シロはしばらく車内を落ち着きなく歩き回っていましたが、後部座席の真ん中、私と息子の間に前脚を、
床に転がしてあったシュラフに後ろ脚を突いた格好でぴたりと立ち止まりました。
「あっ!」
シャーーッと小気味のいい音をたててシロが勢いよくオシッコを始めました。
「あー、あー」
もう口をぽかんと開けて見守るしかありません。今動かせば周り中にオシッコが飛び散ってしまいます。
長い長いオシッコが終わった時、狭い車内には臭いが充満していました。
「少し休んでこようかな」
と娘はいち早く館内に入っていきました。臭気に耐え切れなくなったのでしょう。
「これ、どうするよ」
と息子が半切れでシュラフを指差しました。
「あー、外に出すか」
と私。
「それはすばらしい」
すごい風なので、シュラフのひもを車のドアに挟んだ状態で外に出すと、臭いはだいぶマシになりました。
この後しばらく、我が家でのシロのあだ名は「おもらし大将」でした。
家の周りは水浸しですが、少し坂を上ると何事もなく、無事に公民館まで行くことができました。
まだ台風は日本列島に上陸もしていない時刻で、避難してきた住人もまばらです。
「猫は入れますか?」
と受付で聞くと、
「すみません、猫ちゃんはダメなんです」
との答え。ほったらかしていくわけにもいかないので、
「とりあえず車の中でお弁当を食べよう」
と、朝から準備して置いたふかしイモと唐揚げとパンを食べます。
ここで夫が自分のリュックを忘れてきたことが発覚しました。みんなの食料を少しずつ分け合います。
ベジタリアンの息子にはイモとパンだけ。この子はいつも炭水化物まみれです。
夫が館内の様子を見に行きました。
「これから混んでくるから、場所は取っといた方がいいみたい」
と言うので、私と夫で場所取りに行きました。
人数分の畳をもらって床に敷き、配られた毛布を置いて、私は車に戻りました。
「トイレも借りられるし、疲れたら横になれるよ。どうする?」
と子供たちに聞くと、
「俺はシロと車にいる」
と息子。夫に荷物の番を頼んで、私と子供たちはとりあえず車に残ることにしました。
「ニャア」
それまでおとなしくしていたシロがか細い声で鳴きました。
「よしよし」
娘が自分の手のひらを皿がわりにしてケージに水とカリカリを差し入れてやりました。
「食べた?」
「うん」
しばらくおとなしくなったシロがまた鳴きました。
「ニャア」
「出たいのかな」
「車の中だけならいいんじゃない?かわいそうだよ」
「俺ならいくらでも引きこもってられるんだけど」
要らない自虐ネタをかましてくる息子をさりげなく無視して私はシロをケージから出してやりました。
シロはしばらく車内を落ち着きなく歩き回っていましたが、後部座席の真ん中、私と息子の間に前脚を、
床に転がしてあったシュラフに後ろ脚を突いた格好でぴたりと立ち止まりました。
「あっ!」
シャーーッと小気味のいい音をたててシロが勢いよくオシッコを始めました。
「あー、あー」
もう口をぽかんと開けて見守るしかありません。今動かせば周り中にオシッコが飛び散ってしまいます。
長い長いオシッコが終わった時、狭い車内には臭いが充満していました。
「少し休んでこようかな」
と娘はいち早く館内に入っていきました。臭気に耐え切れなくなったのでしょう。
「これ、どうするよ」
と息子が半切れでシュラフを指差しました。
「あー、外に出すか」
と私。
「それはすばらしい」
すごい風なので、シュラフのひもを車のドアに挟んだ状態で外に出すと、臭いはだいぶマシになりました。
この後しばらく、我が家でのシロのあだ名は「おもらし大将」でした。