伊豆急行(伊東市)の女性運転士小林みどりさん(43)が、三月二十四〜二十七日に下田市の須崎御用邸で静養された天皇、皇后両陛下を乗せた特別列車の運転士を務めた。女性が特別列車を運転するのは同社初で業界でも珍しい。キャリア二十一年の小林さんは「運転士として一度は務めたかった仕事。長年の夢がかなった」と、無事、大役を果たせたことを喜んでいる。
小林さんは都内から運転してきたJRの運転士と伊東駅で交代。伊豆急行線の伊東−伊豆急下田間四五・七キロを、二十四日の往路と二十七日の復路で運転した。同社管内を特別列車が初めて運行した一九七〇年以来、女性が運転士を務めたのは初めてだった。
「身が引き締まる思いで、運転中は緊張して汗が噴き出た」。長年走り慣れた路線だが、重圧は感じていた。沿線の注意箇所で指さし喚呼による安全確認を自分に言い聞かせるように大きな声で心掛け、減速のブレーキも細心の注意を払った。
雨の運行となった二十七日は、乗車前の両陛下から会釈を受けた。運転時間は片道約五十分。「あっという間で、無事に到着して何よりでした」と振り返る。
県内の短大卒業後、九四年に入社した。好奇心が旺盛で「鉄道会社に就職するなら運転士になりたい」と思った。今では珍しくない女性の運転士だが、伊豆急行が日本初で九三年に誕生した。小林さんは社の女性運転士養成の二期生に当たる。
学科や技能を学び、国家試験に合格して九五年十二月に運転士に。ベテランの域に入っても、先輩から学ぶなど社内では努力家で通っている。「雨脚の強さや乗客の数などちょっとした変化で制動距離は変わる。運転技術にゴールはない。いつか特別列車を運転したいと、二十一年間頑張ってきた」と話す。
四年ぶりに伊豆急行線を特別列車が走ることになり、社内で運転士の選考があった。小林さんを推薦した同社運輸部伊豆高原運輸区の鈴木芳弘区長(47)は「特別列車の運転は社員の皆が目指す憧れ。希望すれば誰でもできる仕事ではない」と話す。高度な運転技術に普段の勤務態度も含め周囲が認める存在が歴代務めてきた。今回も「女性の抜てきではなく、最も適材な人を選んだ結果」と強調した。
社内では十数人の女性運転士が誕生したが、始発から終電まで時間が不規則なため長年続ける女性は珍しく、現在は小林さん一人。JRなどで女性運転士の乗務が始まったのは二〇〇〇年以降で、国内で最もキャリアが長い女性運転士になる。「職場結婚した夫や両親が不規則な仕事を理解してくれるおかげ」と感謝し、「大好きな電車の運転をずっと続けたい。今回の貴重な経験を生かし、より安全で快適な運転を目指したい」と目を輝かせた。
(中谷秀樹)
