以前、知人に、映画「ロード・オブ・ザ・リング」が良かったと話したら、その前日譚にあたる「ホビット」三部作のDVDを貸してくれました。お正月休みということもあり、一気に見ました。本編の「ロード・オブ・ザ・リング」には及びませんが、ドラマの核心となる「指輪」を持っていた、ゴラムが私は好き?!というか、とても気にいっていて、そのゴラムも登場するので、楽しみに見ました。映画「「ロード・オブ・ザ・リング」は2001から2003にかけて公開された三部作で、当時大変な人気で見た方も多いはず。私はトールキンの「指輪物語」の映画版と知っていたけれど、当時は全く興味がありませんでした。それがたまたまテレビで放送された時、主人公の水先案内人として登場した、ゴラムに釘付けになりました。ゴラムは骨と皮ばかり。目ばかりがぎょろりとして、言うことはその場その場で真逆になります。このゴラムが、話しかける時、「いとしいしと」(愛しい人、のこと)と言います。彼は目の前の相手にも、指輪にもそう言うのですが、この「いとしいしと」、人の「ひ」を「し」と発音し表記するところは、訳がすごいのか、元々の言葉がすごいのかわかりませんが、「ゴラム」そのものの空気をなんとも良く表していて、このゴラムが話しかける相手に「いとしいしと」と言うのをを聞くと、面白くも悲しく、哀れで、ゴラムこそがなんだか「いとしいしと」に思えてきます。
ゴラムのルックスは、病的で醜く、子どもが見ると怖いでしょう。ただ、地下の洞窟で光のないところに、たった一人でいるゴラムの楽しみは、自分や物に語りかけることしかないし、その語りかけるものへ「いとしいしと」と言うのは、唯一の楽しい、生きた時間に思えてきます。小さく貧弱で愚かなゴラムが美しい指輪に「いとしいしと」と言うのは、なんとも詩的で胸がうたれるのです。
さて「ホビット」三部作は、指輪がメインでなく、自分の国を取り戻すための王の旅にホビットが同行し、その中で闇の勢力と対峙するという展開でわかりやすいものでした。物語の核は、力のない小さなホビットが、知恵とユーモアと普段の暮らしの感覚で、武力を上回る助けをするところ。小さなものたちが世界を救うという、物語の根幹のテーマはこの三部作でも、わかりやすく描かれていました。
原作のトールキンがこうした「小さなもの」やゴラムのような「醜いもの」に背負わせた、本当に魔法をおこす力とは何か、考えさせられます。すっかり忘れてしまった「指輪物語」を今年は再度しっかり読もうと思いました。優れたファンタジーは、夢物語でなく、私たちの今いる世界の本質を代弁してくれています。
「ホビット」三部作