14紀伊國の真珠に懸けた願い
万葉集の巻九の冒頭の三首は、泣けてしまう歌です。一首目は、前日のブログで紹介しました。雄略天皇の歌となっていました。
次の二首は作者名が分かりません。しかし、この二首は相聞になっています。男女が消息(愛)を確かめ合う歌です。
それも岡本天皇の紀伊国行幸の時の歌です。さて、舒明・斉明のどちらの天皇の行幸でしょうか。
1665 愛しい人のために、わたしは玉を拾いたい。沖の深い海の底から玉を持って来てくれ、沖の白波よ。(私はどうしても拾いたいのだ。拾って白玉に懸けたい願いがある)
1666 早朝、貴方はここへ来たけれど、朝霧に濡れてしまった衣を干す間もなく急いで出発して、あなたは独りで山道を越えて行くのだ。(早く、急いで山道を越えてください。どうぞ、ご無事で。わたしは待っています。いつまでも)
上の二首は、愛し合う二人の別れの場面ではありませんか。それも訳アリの二人のようです。どんなわけがあるのか、人麻呂の時代の人は十分に承知していました。
男性が探した白玉は真珠です。瀬戸内の小島の海人が潜水して真珠を得ていたそうです。その白玉は、霊力を持った玉・魂にも通じる玉なのです。「珠だすき」という頭部にのせる神事のアイテムの材料でもありました。海の底の霊力を持つ真珠を手にして願い事をする、男性は差し迫った問題を抱えていました。大事な人の為にもそれを解決しなければならなかったのです。
さあ急いで、貴方に追っ手が来るはず、だから一刻も早く、山道を越えて逃げてください。私は待ちます、貴方の嫌疑が晴れて再びお会いする日まで、私は待ち続けます。女性の悲痛な叫びが、そして強い意志が伝わります。
この歌を詠むと、千年以上の時を越えて泣けるのです。
紀伊国由良の埼・この浜を古代の人も見たのでしょね
この浜に立つと、古の風に触れることができます。晴れた日には海の青が心にしみてきます。
また明日。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます