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お釈迦様の生年月日時の再考察~後編~

2010-09-05 23:48:06 | 占い全般のコラム

>>>前編はこちら

以下、考え直すことにした経緯と、調査内容をつらつらと。

前回(「僕の考える「お釈迦様の生年月日時」」&「続: 「僕の考えるお釈迦様の生年月日時」」)と比べて出生年が異なりますが、それ以上に異なるのは「何月生まれか」という部分です。

南伝仏教の流れを汲むスリランカやタイ、ラオス、ビルマなどでは、釈尊の誕生・成道・入滅は全てVesakha月(古インド暦の第2の月:ヴァイシャーカ/ヴェシャーカー/ヴィシャーカー/ウェサック/ウェーサカなど読み方は様々)の満月の日とされており、東南アジアの仏教国ではウェーサカ祭として盛大にお祝いされます。Vesakha月とは現代のグレゴリオ暦での5月か6月に相当するらしく、それらの国々は5月または6月の満月の日に祝日を設けています。

一方、北伝仏教の流れを汲む中国や日本などでは、旧暦の四月八日が降誕祭(日本では「花祭り」の日)ということになっています(漢訳によっては旧暦二月八日というのもあります)。南伝・北伝のいずれにしても、それらは各種の典籍における記述を基にしているわけですが、新暦に換算すると5月から6月初旬頃になると考えられており、あまり異論は見られません。

ところが、大きな時代を経ると次第に計算との整合性が取れなくなってしまうことがあります。その主な原因として、地球の地軸のすりこぎ運動、専門的には歳差運動と呼ばれる現象が挙げられます。これは地球に対する太陽と月の潮汐力に起因する日月歳差と金・火・木・土星などによる惑星歳差によるものだそうです。まあ難しいことはさておき、歳差はおよそ72年に1度分、黄道を西へずれていきますので、12星座一つ分では2150年ほど、12星座(全天360度)を一周するには25800年ほどもかかることになります。

ビガンデー氏 緬旬仏伝」(文献がGoogle BooksにてPDF化されています)の巻末を見ると、ヴェーシャカ月は陽暦の4月16日~5月15日とあります。西暦2000年を基準として考えると紀元前500年頃では現代から2500年前になり、これを単純計算すると、2500年÷72=34~35度ほどずれ込んでいることになります。太陽星座でたとえると、星座一つ分と6分の1くらい移動ているわけで、これは大体一ヶ月ちょっとのずれです。そうなると、当時は今で言う4月中旬からではなく、3月上旬~中旬辺りからヴェーシャカ(ヴィシャーカー)月が始まっていたと見ることができます。

これは現代のウェサック祭の時期と異なるので違和感がありますが、実際に歳差の関係で変動してしまったとしたら、到底無視できない問題です。次々と移動していく月の星宿=月が宿る恒星群の領域は古代も現代もほとんど変わらないにせよ(恒星の固有運動を除けば)、それを基準に定める暦(カレンダー)が地球の歳差運動のために配列がずれてきてしまう。

ところで、惑星の計算上で注意が必要なのは、約1700年前=およそ西暦285年9月初頭前後がアヤナムシャのプラス・マイナスの境界になることです。基準となる春分点とのずれがないということは、その瞬間はトロピカル方式とサイデリアル方式で12星座に対する惑星位置が同じになることを意味します。現在から285年までの場合、西洋占星術の惑星位置をインド占星術のそれに変換するにはアヤナムシャ分を-するわけですが、ゼロ境界をまたぐと、今度は+することになります。釈迦が生まれた頃では大体11度半ほどプラスです。なお、このアヤナムシャは、トロピカル方式とサイデリアル方式との変換に関わるものなので、それがプラスになろうがマイナスになろうが、年毎に春分点が西側へわずかずつ移動していくことには変わりありません。

で、そうした歳差に関する知識は以前からあったのですが、釈迦の生年月日を考察する際には、ただ経典などの資料に依存していて、全く考慮に入れてませんでした。考えてみれば、Vesakha月など星宿を基にした月名が使われているので、そこには恒星が関わっています。詰まる話、地球と星々との位置関係を表すものなので、地球の歳差による首振り運動を勘案するのは自然なことのように思えます。

そして今回、歳差という観点に気づかせてくれたのは、次のサイトでした。

『原始仏教聖典資料による釈尊伝の研究 』

このサイトで公開されているPDF形式の各論文によると、実は入胎が5月(旧四月)頃で、出生自体は春先(旧二月)になるとのことでした。詳しくは上記サイトを参照していただきたいのですが、特に『「中央学術研究所紀要」モノグラフ篇 No.1 【論文3】釈尊の出家・成道・入滅年齢と誕生・出家・成道・入滅の月・日』、『【論文2】原始仏教時代の暦法について』および『【資料集3】仏伝諸経典および仏伝関係諸資料のエピソード別出典要覧』が大変参考になります。

これらは、以前に自分自身で多くの文献やウェブサイト、発表されている論文を調べていた時の情報以上のものが一つにまとめられており、もっと早くにこれを知っていたら・・・と溜息を漏らしたほどです。

なお、論文中に出てくる「ビガンデー氏 緬旬仏伝」によると、仏滅年はアニュジャーナ紀元の148年とあり、これは西暦では紀元前543年に相当するそうです。そして、出生はその紀元における68年のこととあるため、釈迦(シッダールタ)の出生年は紀元前623年(または624年)という計算になります。南伝系の仏教国で、紀元前624年を釈迦の誕生年としているのは、これに拠っているからだと思われます。しかし、昨今の仏教学者等らの調査による年代と大幅に食い違っており、素直に信じてよいものかは疑問が残ります。

一応、史書としてのアニュジャーナ紀元の初年は紀元前691年ということなのですが、実際のところ干支一巡分、すなわち西暦換算で60年ずれているのではないかと僕は考えています(そうすると、釈迦の出生が紀元前563年になる)。この点を除けば、記述されている星宿や月の位相、および月名や七曜の表記は参考にできるのではないかと思い、今回の再考察にそれらの情報を加味した次第です。

結果的に、年については西洋の仏教学者の多くが採用している紀元前563~483年と同じになりましたが、それには以下のような占星術および天文学的な理由があります。

先の「ビガンデー氏 緬旬仏伝」によると、”出生(出胎)はアニュジャーナ紀元68年、カチヤン月(=Vesakhu / Vesak / Vaisakha)の満月の第6日”とか、”アニュジャーナ紀元68年のヴェーシャカ星宿の下の金曜日”と書かれています。先に記したように、アニュジャーナ紀元と現行暦との変換には疑問があるのですが、単なる年代の変換ミス(60年のズレ)として考えれば貴重なソースとして活かせるのではないかと思います。つまり、年を現在の学問的考証に沿わせつつ、「カチヤン月の満月の第6日」だとか「ヴェーシャカ星宿の下の金曜日」というデータを条件として使用する、という風にです。

以下に、実際に紀元前560年前後の天文事象と照らし合わせてみた結果を載せます。(現代の時代考証の研究成果では、主に紀元前563年前後とされているので、少し幅を持たせて紀元前の567年~559年を調査してみました。)

§カチヤン月(Vesakhu)の満月頃、またはヴィシャーカ宿にあって金曜日に該当するか(※Astrolog32にて検証)

釈迦が生きている頃の暦は、歳差の関係で今とは1~2ヶ月ほど食い違っているとの見方を採用すると、釈迦の出生時期は春先になります。ここでは旧暦の2月もしくは3月と仮定して調べてみました。旧暦の日付は現地時で求めましたが、何月かについては正しいかどうか自信がないです(誰か正確な計算をしてください)。

 

表2 カチヤン月の満月頃、またはヴィシャーカ宿の金曜日に該当するか?
日付(括弧はグレゴリオ+ユリウス)、旧暦、日干支 該当:○
該当しない:×
紀元前567年3月21日(27日)、旧2月15日、乙丑
紀元前567年4月18日(24日)、旧3月14日、癸巳
○(16時半頃~)
○(終日)
紀元前566年 ×
紀元前565年 ×
紀元前564年4月15日(21日)、旧3月15日、丙午
(ヴィシャーカ宿だが、土曜日)
×(△)
紀元前563年3月9日(15日)、旧2月18日、甲戌
紀元前563年4月6日(12日)、旧3月17日、壬寅
○(8時半頃~)
○(~15時半頃)
紀元前562年 ×
紀元前561年 ×
紀元前560年4月2日(8日)、旧2月16日、甲寅
紀元前560年4月30日(5/6日)、旧3月14日、壬午
○(8時頃~)
○(~17時頃)
紀元前559年 ×

よく分からないのは、「カチヤン月(二番目の月)の満月の”第6日”」の部分。これは、満月後の6日目のことなのか?
でも、それに該当する日は上記にはありません。あるいは、各月が新月から始まると考えて、Vesakhu月の6日目(旧暦2月6日とか3月6日)と考えたらいいのか・・・、謎です。


あと、純粋に満月の日や旧暦の15日という意味では紀元前567年の旧2月15日だけですが、ヴィシャーカ宿になるのは夕方からになります。これで思い出すのは、2008年5月頃に立ち読みしたディーパック・チョプラ博士だったかのブッダに関する小説です。あれには確か夕方という記述があった気がしますが、年は紀元前563年BCEとしていたような。たぶん、この本だと思う。ただ、そもそも本当にピッタリ15日かどうかも怪しいわけで鵜呑みにはできません。もし視覚的に真ん丸お月様でも、暦の計算上では14日だったり16日だったりするわけで、当時の人がどのように把握していたのかが分からない限り、何とも言えません。

なにはともあれ、一ヶ月に亘ってホロスコープや四柱推命などの命式と「にらめっこ」し続けた結果、最も釈迦の人生にマッチしていそうなのは紀元前563年だと考えました。出生時刻に関して正確さを求めるのは困難ですが、とりあえず、自分なりの考えは整理できたと思えたため、改めて記事にすることにしたわけです。

現時点では、少なくとも何か決定的な証拠でも見つからない限り、日本で言われている紀元前463~383年説とか、先に紹介した紀元前624~544年を支持することはできません。もっとも、今回は紀元前563年の前後5年くらいを中心に調べてきたので、さらに幅を持たせて検討したら、また違った見解を抱くことになるかもしれませんが。

今回にしても、ヒントとなるような経典の記述を基にしているので、それが間違っていたら元も子もないという不安はあります。それでも一応、自分の印象としては月が満月の近くで、かつトロピカルとサイデリアルの計算で風のサイン、特にナクシャトラの支配星が木星の宿になるというのは良さそうな気がします。つまり、プナルヴァス(井)、ヴィシャーカー(氐)、プールヴァ・バードラパーダ(室)のどれか。僕自身も、いきなり鵜呑みにしたわけではないですが、調査をしていく中で経典通りヴィシャーカーを採用して良いのではないかと思いました。


ちなみに、手元にある『インド占星術で識る英知 星にあらわれる覚者の人生』(原題:「Buddhist Astrology: Chart Interpretation from a Buddhist Perspective 著者: Jhampa Shaneman,Jan V. Angel」※リンク先の15ページ目に、著者が考えるシッダールタのホロスコープ、52ページには悟ったとされる時の二重円が掲載されています)では、ゴータマ・シッダールタの生年月日は、紀元前575年5月23日12時30分(25N36, 085E37)となっています。これだと、今の西洋の学者達が主張している年代よりも10年以上も早い生まれになります。うーん、上表の年代に絞らずに、もっと調査範囲を広げる必要があるかな? あと、微妙に出生地のデータが異なってるのも気になる。

一応、『インド占星術で識る英知』のデータを旧暦や四柱干支に換算すると、次のようになります。

年月日時:紀元前575年5月23日(グレゴリオ暦で統一すると17日)、12時30分(Mula:尾宿)、水曜日
四柱干支:丙戌年癸巳月庚辰日壬午時
旧暦日付:丙戌年4月15日午刻 → 時間起卦:水風井の初六

ナクシャトラはムーラで、水曜日なので、先の検索条件には一致しません。それと、このデータは、ヴィシャーカ月を現行暦の5~6月として考えているため、必然的に旧暦は4月頃になっています。王者になる定めとして、「上昇宮が獅子座で牡牛座の太陽でなければならない」というようなことが書かれていますが、Astorolog32でサイデリアル変換してみても、そのようにはならず、アセンダントは乙女座です。その上、サイデリアルの場合では太陽は双子座になってしまって、書かれていることと矛盾します。

ちなみに、『インド占星術』というタイトルが付いていますが、日本語訳版を見る限り、まったく西洋占星術の内容です。どこにインド占星術の要素が入っているのか、よく分かりません。仏教的観点から占星術を考えるという意義をもった本だと思うので、そういう含みのあるタイトルにすれば良かったのではないでしょうか。

一応、上記条件に加え、サイデリアル方式でアセンダント(ラグナ)が獅子座+牡牛座の太陽という条件を考えた場合、候補として挙げられるのは次の3つです。紀元前563年のは旧暦が近いという理由で一緒に入れておきましたが、牡牛座に3度ほど届きません。なお、旧暦17日だと満月から少し欠けた頃かと思いそうですが、実際のホロスコープを見る限りでは100%に近い満月です。

先の候補の中で、ラグナが獅子座、太陽が牡牛座になるものを抜粋
日付(括弧はグレゴリオ+ユリウス)、旧暦、日干支 該当:○
紀元前567年4月18日(24日)、旧3月14日、癸巳 ○(終日)
紀元前563年4月6日(12日)、旧3月17日、壬寅 ○(~15時半頃)
紀元前560年4月30日(5/6日)、旧3月14日、壬午 ○(~17時頃)


牡牛座の太陽かつ獅子座のラグナになるためには、旧暦二月は候補から外れてしまいます。もっとも、仏教経典には当然ながら占星術的な表現は入っていないので、本当に牡牛座の太陽なのか、また獅子座のラグナなのかは分かりません。上の表はあくまで参考までに。



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