発達障がい・こころのやまい

専門外ながら相談を受けることがあり、その際に読んだ本や集めた情報を書き留めました(本棚9)。

早産児と発達症(ADHD/ASD)リスク

2023-08-20 12:12:39 | 発達障がい
私が小児科医になった35年前は、
「肺サーファクタント」という画期的な薬が登場し、
それまでは救命できなかった超早産の低出生体重児が救命できるようになった、
新生児医療の転機ともいえる時期でした。

30年ほど前、新生児医療にかかわっていました。
肺サーファクタントは魔法の薬でした。
1000g前後の赤ちゃんが生まれると、
3日間は付きっ切りで呼吸管理をする必要がありましたが、
この薬のおかげで呼吸状態が安定し、
患者さんの傍を離れることができるようになりました。

救命できる赤ちゃんは増えましたが、
しかし後遺症を残す赤ちゃんもいました。
「この子の一生はどうなるんだろう?」
と退院の際にも憂いの気持ちが消えませんでした。

そして現在、
未熟児医療の進歩で以前よりも多くの赤ちゃんが救命できるようになりました。
一見、問題がなくNICUを退院できた子どもたち…
しかし近年、早産児に発達障害(現在は“発達症”)が多いことが判明し、
徐々にデータがそろってきました。

先日聴講したセミナーでこのことを扱っていましたので、
備忘録としてメモしておきます。

ポイント
・生後5-6か月児の足の踏ん張り方を確認すると足底の感覚過敏がわかり、
 それを訓練に応用できる。
・併存障害として、従来は脳性麻痺と精神運動発達遅滞だけだったが、現在は発達性協調運動症(DCD) 、限局性学習症(SLD) 、注意欠如多動症(ADHD) 、自閉スペクトラム症(ASD) など、多彩な疾患の可能性を考慮する必要がある。
・知的発達症(知恵遅れ)の在胎週数と発生率の関係は
 一般の赤ちゃん:1%
 24週以下:14.5倍
 32週  :3.6倍
 37週  :1.5倍
 38週  :1.3倍
 40-41週  :1.0倍
 42週  :1.2倍
・ADHDは、早期産、SGA、巨大児でリスク上昇
・ASDは、
 一般児(5歳時):2.8%
 超早産児(<32週):7%
 超早産児(<32週)かつ極低出生体重児(<1500g):20.8%
・超早産児ASDは幼児期には診断に至らないグレーゾーンが多く、学童期に顕性化する(preterm behavioral phenotype )

「赤ちゃんは泣くもの」と考えているので、今まであまり気にしてこなかったのですが、診察時にずっと泣いている赤ちゃんを時々見かけます。
もしかしたら「感覚過敏」で触られることさえ嫌がっていたのかも…と思えてきました。


▢ 早産児はASD(自閉スペクトラム症)のハイリスク
・ASD/ADHD と DCD と SLD はオーバーラップして出現する。

▢ 早産児の精神運動発達面での併存障害(神経発達症)

1.運動:脳性麻痺(CP)、発達性協調運動症(DCD)
・脳出血(ICH)
・脳室周囲白質軟化症(PVL)
・びまん性白質障害
・Punctate white matter lesion(PWML)
・小脳機能的/器質的障害

2.認知:知的発達症、限局性学習症(SLD)
・Encephalopathy of prematurity:大脳白質・灰白質障害、小脳萎縮
・栄養障害:子宮外発育不全(EUGR)

3.行動:注意欠如多動症(ADHD)
・過剰で不快な感覚刺激(光・音・触覚・嗅覚)
・日内リズムの異常
・睡眠障害
→ 刺激に過剰反応、自己鎮静の苦手さ、泣きやみにくさ

4.社会性:自閉スペクトラム症(ASD)
・痛みを伴う処置(採血・点滴・気管吸引)
・母子分離
・ストレスの多い体外環境
→ 自己防衛反応、苦痛からの回避、外界遮断

▢ 併存障害の評価・診断方法
1.運動:脳性麻痺(CP)、発達性協調運動症(DCD)
・MABC-2
2.認知:知的発達症、限局性学習症(SLD)
・発達テスト:新版K式 WISC-Ⅳ
3.行動:注意欠如多動症(ADHD)
・M-CAHT、ADHD-RS
4.社会性:自閉スペクトラム症(ASD)
・PARS、ADOS-2

▢ 感覚過敏の評価は生後5-6か月児の足の踏ん張り(腋窩支持立位)で
(正常)ピョンピョンする→つかまり立ちにつながる
(足底の感覚過敏)足の踏ん張りを嫌う
 → sitting on air position → 独歩の平均は1歳6か月
 + shuffling なら、独歩の平均は1歳9か月

▢ 感覚過敏児の足の踏ん張りの発達過程
 足の踏ん張りを嫌う(足底が付くかどうかがポイント)
  ↓
 少し踏ん張れる…足底の感覚過敏軽減
  ↓
 腰が逃げる(腰を曲がげているかどうかがポイント)
  ↓
 腰がふらつく…バランス未熟
  ↓
 ピョンピョンできる

▢ 感覚過敏児の腋窩支持立位訓練・練習
・脇を支えて立位練習(全身的な筋緊張正常なら)
・ピョンピョン練習
 → 踏ん張り可なら体を傾けてバランス練習

▢ 感覚過敏児の訓練・練習
・腹臥位が嫌いなので寝返り、ハイハイをしない、立位も嫌い
・遊びながら腰をひねって寝返らせる
 限界時間×0.8を繰り返すと慣れてくる
・乳児早期からの腹臥位練習(Tummy Time)は発達促進にも効果的

▢ 発達性協調運動症(Developmental Coordination Disorder)のDSM-5診断基準

A. 協調運動技能の獲得や遂行が、その人の生活年齢や技能の学習および使用の機会に応じて期待されているものよりも明らかに劣っている。その困難さは、不器用(例:物を落とす、物にぶつかる)、運動技能(例:物をつかむ、はさみや刃物を使う、書字、自転車に乗る、スポーツに参加する)の遂行における遅さと不正確さによって明らかになる。

B. 運動技能の欠損は、生活年齢にふさわしい日常生活活動(例:自己管理、自己保全)を著明および持続的に妨げており、学業または学校での生産性、就労前および就労後の活動、余暇および遊びに影響を与えている。

C. この症状の始まりは発達段階早期である。

D. この運動技能の欠如は、知的障害や視力障碍によってはうまく説明されず。運動に影響を与える神経疾患(例:脳性麻痺、筋ジストロフィー、変性疾患)によるものではない。

→ 以上をわかりやすく言い換えると…
「ふつうより明らかに不器用で、遅いうえに不正確。学校や職場で困るほどの状況。不器用さは乳幼児期から始まり、神経学的基礎疾患は認められない。」
★ DCDはADHDを50%合併、ADHDはDCDを50%合併、SLDはDCDを50%合併

▢ 発達性協調運動症(DCD)の特徴
・初期運動のマイルストーン(座る、這う、歩く)の達成はほぼ正常
・就学前:階段を上る、ペダルをこぐ、ボタンかけ、パズルを解く、
  靴ひもを結ぶ、ジッパーを使うなど特定のスキルの習得困難/遅延
・物を落としたり、つまづいたり、障害物にぶつかったり、転びやすい。
・小学生:チームスポーツ(特に球技)、自転車、手書き、モデルやその他の物の組み立て、地図の描画など、細かい運動能力などが遅い/不正確。

→ 以上をわかりやすく言い換えると…
バランス感覚・視覚認知・微細運動が苦手→ 不器用

▢ 知的発達症の在胎週別発生頻度
・遺伝的要因のない知的発達症の有病率は1%。
・妊娠40-41週での出生が発症頻度が最も少ない。
・在胎週数と知的発達症のOR;
 24週以下 14.54
 32週   3.59
 37週   1.50
 38週   1.26
 39週   1.10
 42週   1.16
以上より、
・発達遅延を疑えば、在胎週数を要確認
・早産児は知的発達症のハイリスクだが、過期産も注意
・予定帝切は38週以後で
しかし問題点あり…
・極低出生体重児以下は長期フォローされているが、在胎32週以下、出生体重1500g以下はフォローアップ体制が不十分(マンパワー不足?)

▢ 低出生体重児と知能指数
・新版K式発達検査の3歳暦年齢DQ値(中央値);
         超低出生体重児  極低出生体重児
(全領域)      82        89
(姿勢・運動)    86        92
(認知・適応)    82        89
(言語・社会)    81        88
★ 正常:85以上、境界:70-84、遅延:69以下

▢ 低出生体重児と後遺症頻度(3歳暦年齢、%表示)
         超低出生体重児 極低出生体重児
(生存率)      86       96
(脳性麻痺)     6.6       3.8
(発達遅滞)     21.8      11.0
(発達境界領域)   19.4      14.0
(視覚障害)     3.5       0.7
(聴覚障害)     2.7       1.2
(NDI)       25       13
★ NDI:neurodevelopmental impairment

▢ 限局性学習症(SLD, Specific Learning Disorder)
・知的能力は平均域以上、学習・環境問題なし
・読字、書字、計算、数的概念など、特定の領域で学習の習得困難
・7~8歳頃から困り感 ↑

▢ 読字障害
(症状)
・読みの正確性が低い
 類似した文字の区別がつかない(わとれ、めとぬ)
 読み飛ばしが多く、どこを読んでいるのかわからなくなる
 文字・単語はわからないが、音としては認識可
・流暢さ・速度に難がある
 緊張してスムーズに読めない
(対策)
・乳幼児期から毎日の読み聞かせは言語発達に有用
 読める字を探す→親子交代で読む→母への読み聞かせ(一人で読む)
・遊び道具→パラパラめくりのみ→
 →徐々に親の読むペースに合わせられる(相手の話を聞く+集中力の練習)
・TV、ビデオ、You tube は控える

▢ 書字表出障害
・綴り字、文法、句読点の正確性が低い
・3~5歳は図形模写、5~6歳で名前を書いてもらう
・3歳で〇、4歳で▢、5歳で△が書けるようになるのが普通
・6歳では〇と▢を組み合わせる
・自力×お手本を見せて達成感

▢ 算数障害
・計算、図形、算数推論の困難さがある
・誕生日/年を足し算・引き算で当ててもらう

▢ ADHD(注意欠如多動症)と在胎週数の関係
・標準体重で最低、SGA、巨大児でリスク上昇
→ ADHDを疑えば、在胎週数だけでなく出生体重と身長のバランスも確認
・在胎週数が短いとリスク上昇:24週でOR10、27週でOR5、30週でOR3、33週でOR2…
→ 早産児はADHD優位のASDに注意

▢ ASD(自閉スペクトラム症)と在胎週数・出生体重との関係
・5歳児全体での累積発生率:2.75%
・超早産児(<32週)の有病率:7%
・超早産児(<32週)かつ極低出生体重児(<1500g):20.8%

▢ 超早産児ASDに特有の発達臨床像
・preterm behavioral phenotype(学童期に早産児特有の行動様式へ)
・自閉スペクトラム特性は高いが診断には至らない「診断閾値以下群」が多数存在
・その本質は、言語発達ーコミュニケーション機能の異常

1.乳児早期:社会的関心は正常
・周囲への関心→〇
・アイコンタクト→〇
・あやし笑い→〇

2.乳幼児期
・言語発達遅延→△
・限定的な興味→〇(なし)
・反復行動→〇(なし)
・執着→〇(少ない)
しかし…
・マイペース
・手をつなぐ→△(いやがる)
・言葉のキャッチボール→△(苦手)
・ほかの子への興味→〇(ある)

3.学童期
・社会性→✖(乏しい)
・不注意→✖(その通り)
・不安に陥りやすい→✖(その通り)
そして…
・統語能力が低い
・語用の間違いをしやすい
・「なぜ」を説明できない

▢ 早産児ASDの特性(Preterm behavioral phenotype)
・WISC-Ⅳで計れる語彙、言語記憶などの単純な言語能力は伸びていく。
→ 見かけ上IQは維持される→ 発達正常と誤解される
・超早産児の感覚過敏は一過性で改善し、常同的行動、こだわり、執着が少ない。
→ 定型ASDほど手がかからない→ 見過ごされやすい
・複雑な言語能力、状況や文脈の中で総合的に理解する力について、同世代とのgapが年齢とともに開いていく。
→ 実生活での過ごしにくさ、人間関係構築の苦手さ、社会性が乏しい、不注意、KY
→ 自信喪失、社会生活での失敗、不安・自己否定につながりやすい
・状況に応じた言語の理解度が低い→会話がかみ合わない→トラブルに発展
→ 自分の置かれた状況や気持ちを他者にうまく説明できずに立ち往生

▢ 幼児期以後のフォローアップ外来のポイント
・発育、精神運動発達、神経発達症を意識しながら診察
・1歳からの片づけ練習
 はじめは一緒に→代わりばんこ→「遊んだ後はどうするの?」
 「片づけなさい」という命令は△
・自分で仕事を選んでもらうお手伝い(自主的に考えて行動してもらう言葉がけ)
・読み聞かせ、図形模写がおススメ
 → 書字、手の回内回外(スムーズさ、鏡像運動誘発の有無)
  TV/You tube は好ましくない
  粗大運動:ジャンプ→ケンケン→片足立ち
・子どもの力を推測してやれそうなことからやってもらう
・困っていることがないか探しながら、アドバイス
・本人と相談して、やれそうなことを一つだけ約束して、最後はサヨウナラの挨拶、次回、できるようになったかを確認→ 自信アップ




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