京都童心の会

ほっこりあそぼ 京都洛西の俳句の会
代表 金澤 ひろあき
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芭蕉の絵巻

2021-03-15 07:59:49 | 俳句
芭蕉の絵巻
            金澤ひろあき
 日本には古くから絵巻というものがあり、漫画の元祖だという人もいます。説明の文章とともに、その中の有名なシーンを絵にして見るようになっています。
 昔は声を出して文章を読んでいたようで、声を聴きながら絵を見るのですから、アニメ的なのかもしれません。
 松尾芭蕉の一生も、『芭蕉絵詞伝』という絵巻になっています。この絵巻の制作指揮をしたのは、蝶夢という大津の義仲寺ゆかりの僧で俳人だった人です。
 芭蕉没後百年の頃に、蕉風復興を起こすような形で描かれました。芭蕉の墓がある義仲寺の宝ですが、大津市歴史博物館で、2021年3月に見ることができました。
 蝶夢は芭蕉を慕い、芭蕉全集を出した人でもあります。描いたのは、狩野正栄で、京狩野派の絵師です。狩野派は江戸時代絵画の正統派で権威ですから、力を入れたようですね。
 絵巻は芭蕉が、伊賀上野で藤堂良忠(俳号 蝉吟)に仕える場面から始まり、芭蕉の人生や旅の要点を描きます。全長40メートルだそうな。
 良忠の死後、伊賀上野を離れるシーンが続きます。そして江戸深川の芭蕉庵に入るシーンです。芭蕉庵では、笠作りで生計をたてたことになっています。(幕府の水道工事に従事していたことは、たぶん伏せられていたのでしょう。)
 芭蕉庵が火災に遭った後は、旅のシーンが続きます。『野ざらし紀行』のふじが富士川の捨て子のシーン。西行谷の芋洗う女のシーン。東大寺のお水取りのシーンと続きます。
 お水取りの句は「水とりや氷の僧の沓の音」ですが、蝶夢の絵巻では、「氷」が「こもり」になっています。「氷」のほうが、厳しい感じが伝わる、心象の色になるような気がします。
 その後、深川に帰ったシーンの後、『笈の小文』『更科紀行』そして『奥の細道』のシーンが並びます。フィクションだそうですが、市振で遊女達と旅の同行を求められるも断るシーンが印象に残ります。打ち寄せる荒波。そのそばの頼りなさげな家。家の中には遊女と芭蕉達。
「一家に遊女も寝たり萩と月」
 連句で言うと、月の座と恋の座を兼ねているんですね。でも淋しいはかなげな恋の座ですね。
 旅の後は、大津国分山の幻住庵の絵があります。石山寺、瀬田の唐橋、膳所城も描かれていて、今は失われた姿が伝わります。
 去来の落柿舎、京の夕涼み、堅田の浮見堂の月見のシーンの後、故郷伊賀上野の雪芝の屋敷で松を植えるのを見るシーン。京の嵐山、奈良のシーンの後が、大坂南御堂花屋で亡くなるシーンです。亡くなったあと、亡骸を伏見まで船で運び、そして最後に義仲寺の墓を描きます。
 芭蕉の句や文の研究もですが、伝記の研究も、この絵巻から出発したのではないかと思いました。蝶夢はこの絵巻を作るとともに、版木を作り、出版しているのです。
 少しの間、芭蕉と歩いているような心地でした。
  絵の中の翁としばし語る春   ひろあき