混沌に滅し混沌より生じる(マーラーの10番)

2012年05月15日 00時00分37秒 | 巻九 マーラーが私に語ること
いま神話の概説書を読んでいるのだが、
世界が原始海から創成されたという話は多い。
混沌から、秩序。そのような含意もよく見られるようだ。

Symphony No 10
ダニエル=ハーディング ウィーンフィル
Dg Imports


ところでマーラーの交響曲9番は、
自分の個人的感覚としては
なにか地の底で呻くような音楽だ。

それに対して10番は
(マーラー本人の完成形ではないことは承知の上で)
なにか空中を彷徨い漂うかの如き音楽だと思う。
上も下も右も左もわからぬ。

これが死後の世界を連想できるなどと言えば、
この曲がマーラーの死の間際の作曲である事実の後付け解釈と指摘されようが。
しかし、でもやはりこの音楽は、
肉体から離脱した魂が彷徨するさまを思わせる。

そして第5楽章、
かの「マーラー史上最美」とさえ思えるフルートの上昇旋律が、
その宙ぶらりんな「幽体離脱」状態から魂をサルベージして、
何か天空の次世界(ある宗教的表現で言えば天国とか)に連れて行ってくれるが如し。

世界は混沌から生じ、
死とはすなはち混沌への帰還である。
…そんな思索の戯れに、たまには寄り道してもいいじゃん。
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