もう随分昔のオーストラリア・オフロードファンライドでの出来事。
残念な事にこのツアーはもう存在していない、幻のツアーとなってしまいました。思えば私が同行した最後のツアーだったと思います。
我々の出発直前、オーストラリアのグレートディバイディング山脈を襲った豪雨はじっくり時間をかけてアウトバックへ流れ下り、我々が到着する日に合わせたかのように出発地点のインバレルやその周辺を水浸しにしてしまいました。おまけにこのツアーは、シドニーから搭乗する予定の国内線航空会社が到着直前に倒産というトラブルにも”恵まれ”て私としても初日から張り切りどころ満載でもありました。
途中の経由地で航空機が着陸態勢に入ると目に飛び込んできたのは滑走路を除いて褐色の水に没した広大な土地。着陸コースの真下にショベルカーが停めてあり、これすら水没しているのです。我々の最終目的地はどうなっているのか、果たしてこんな中、バイクで走る事が可能なのか心配が募ります。
幸い、ツアースタート地点はそこまでの洪水ではなく、現地に到着してホッとした我々は翌日からのツアーに備えます。地面は洪水で、道路脇の牧草地が水に浸かっていたりするのですが天候そのものは晴れ。我々の感覚では日々、水は引いていくのだと思ったのですがこれは大きな間違いであった事を後日思い知らされる事になります。
翌日、走り始めてみると、天候は大丈夫。ただし、路面は乾いているわけではなくてオーストラリア独特の赤い埃(ブルダスト)が雨を含んでいるところなどは恐ろしく滑ります。オーストラリアの内陸では、普段は水がない川が結構あるのですが、そういうところもすべて水があって、私が乗っていたDR200の車高ではタンクまで水がくるほどの水位もがあるところもありました。
道路は平原の中で少し小高く土を盛ってあり、道路脇全体が水に浸かっていても道路は水面上にある事が多いので水を逃れた動物たちが道路に集まっています。昔、パールバックの”大地”を読んだときに、その中に中国の農村の洪水の描写で、道路脇の土手へ人々が避難していると、そこへ蛇が避難してくるシーンがあったのを思い出します。
道路に避難しているのはトカゲや蛇、エミュー、カンガルーなどのほか、牛もいたのでしょう。だから先行するバイクが跳ね上げる泥がなんとなく牛糞の匂い。そうこうするうち、牛糞でスリップして牛糞の上に転倒してしまう人まで発生したのでした。
そんな、すったもんだの末たどり着いた最初の宿泊地は人里離れた森の中にある牧場の廃屋。オーストラリアの農場では、土地がたくさんあるためか、家を建て直すときに元の家を取り壊すのではなく、場所を移して家を建てると想像。その、元の家を我々の宿泊地店として提供してくれた模様です。
現地ガイドが焼いてくれたバーベキューを食べながらビールを飲んでいると、バーベキューで仲間が焼かれている事がわかるのか、牧場の牛たちが今まで聞いたことの無いような声で鳴きながら柵のこちら側へ集まってきます。以前、タイの山岳地帯で犬を食べたときに翌日村中の犬に自分だけが吠えらえた事が思い出されます。
ここは人里離れた牧場。ここに住んでいる人たちの話によると、森にはコアラがいることもあるし、我々が泊まる廃屋の地下にはハリモグラがいるとの事。この時、初めてポーキューパイン(モグラ)という英語の単語を知りました。
オーストラリアのガイドはとても早寝早起き。バーベキューが終わったらすぐに"Good Night"。私自身も初日の疲れとビールの酔いで廃屋の中で寝袋を被ったらすぐに眠ってしまったようです。
ふと、尿意を覚えて目を覚ました私。周囲にはお客さんたちが同じように寝袋で雑魚寝しています。ところが目を開いても何も見えないのです。寝袋にすっぽり入り込んでしまっているんだと思った私は顔の周りの寝袋を払いのけようと手を動かすのですが、何の感触もありません。枕にしていたウエストバッグに小型のマグライトが入っているので手探りで取り出してみると、この家の中は文字通り漆黒の闇で懐中電灯なしには身動きできないことがわかりました。そういえば窓ガラスなどはすべて破れていて、代わりに板が打ち付けてあったり、鎧戸が下してあった記憶があります。
懐中電灯の明かりを頼りにお客さま方を踏みつけたりしないように慎重にドアに向かいます。上手くドアにたどり着いて外に出てみるとそこは昼間のように明るく、空には満天の星。星屑をちりばめたというレベルではありません。黒い紙に刷毛で白いペンキを塗ったようだといえば伝わるでしょうか。空には星の無い面積の方が少ないのです。マグライトは家の中では必要でしたが、外では全く用をなさないほど外は明るいのでありました。
高い山の上やいろいろな国の砂漠で”満天の星空”は今までも目にしてきましたが、それから何年も過ぎた今になっても、あの時の星空ほど美しい星空は見たことがありません。まさに息を飲むような光景です。星の光に照らされながら外へ出てきた用事を、これも至福の思いで済ませた後は再びマグライトの明かりを頼りに自分の寝袋へ戻って夢の世界へ戻っていったのでありました。
残念な事にこのツアーはもう存在していない、幻のツアーとなってしまいました。思えば私が同行した最後のツアーだったと思います。
我々の出発直前、オーストラリアのグレートディバイディング山脈を襲った豪雨はじっくり時間をかけてアウトバックへ流れ下り、我々が到着する日に合わせたかのように出発地点のインバレルやその周辺を水浸しにしてしまいました。おまけにこのツアーは、シドニーから搭乗する予定の国内線航空会社が到着直前に倒産というトラブルにも”恵まれ”て私としても初日から張り切りどころ満載でもありました。
途中の経由地で航空機が着陸態勢に入ると目に飛び込んできたのは滑走路を除いて褐色の水に没した広大な土地。着陸コースの真下にショベルカーが停めてあり、これすら水没しているのです。我々の最終目的地はどうなっているのか、果たしてこんな中、バイクで走る事が可能なのか心配が募ります。
幸い、ツアースタート地点はそこまでの洪水ではなく、現地に到着してホッとした我々は翌日からのツアーに備えます。地面は洪水で、道路脇の牧草地が水に浸かっていたりするのですが天候そのものは晴れ。我々の感覚では日々、水は引いていくのだと思ったのですがこれは大きな間違いであった事を後日思い知らされる事になります。
翌日、走り始めてみると、天候は大丈夫。ただし、路面は乾いているわけではなくてオーストラリア独特の赤い埃(ブルダスト)が雨を含んでいるところなどは恐ろしく滑ります。オーストラリアの内陸では、普段は水がない川が結構あるのですが、そういうところもすべて水があって、私が乗っていたDR200の車高ではタンクまで水がくるほどの水位もがあるところもありました。
道路は平原の中で少し小高く土を盛ってあり、道路脇全体が水に浸かっていても道路は水面上にある事が多いので水を逃れた動物たちが道路に集まっています。昔、パールバックの”大地”を読んだときに、その中に中国の農村の洪水の描写で、道路脇の土手へ人々が避難していると、そこへ蛇が避難してくるシーンがあったのを思い出します。
道路に避難しているのはトカゲや蛇、エミュー、カンガルーなどのほか、牛もいたのでしょう。だから先行するバイクが跳ね上げる泥がなんとなく牛糞の匂い。そうこうするうち、牛糞でスリップして牛糞の上に転倒してしまう人まで発生したのでした。
そんな、すったもんだの末たどり着いた最初の宿泊地は人里離れた森の中にある牧場の廃屋。オーストラリアの農場では、土地がたくさんあるためか、家を建て直すときに元の家を取り壊すのではなく、場所を移して家を建てると想像。その、元の家を我々の宿泊地店として提供してくれた模様です。
現地ガイドが焼いてくれたバーベキューを食べながらビールを飲んでいると、バーベキューで仲間が焼かれている事がわかるのか、牧場の牛たちが今まで聞いたことの無いような声で鳴きながら柵のこちら側へ集まってきます。以前、タイの山岳地帯で犬を食べたときに翌日村中の犬に自分だけが吠えらえた事が思い出されます。
ここは人里離れた牧場。ここに住んでいる人たちの話によると、森にはコアラがいることもあるし、我々が泊まる廃屋の地下にはハリモグラがいるとの事。この時、初めてポーキューパイン(モグラ)という英語の単語を知りました。
オーストラリアのガイドはとても早寝早起き。バーベキューが終わったらすぐに"Good Night"。私自身も初日の疲れとビールの酔いで廃屋の中で寝袋を被ったらすぐに眠ってしまったようです。
ふと、尿意を覚えて目を覚ました私。周囲にはお客さんたちが同じように寝袋で雑魚寝しています。ところが目を開いても何も見えないのです。寝袋にすっぽり入り込んでしまっているんだと思った私は顔の周りの寝袋を払いのけようと手を動かすのですが、何の感触もありません。枕にしていたウエストバッグに小型のマグライトが入っているので手探りで取り出してみると、この家の中は文字通り漆黒の闇で懐中電灯なしには身動きできないことがわかりました。そういえば窓ガラスなどはすべて破れていて、代わりに板が打ち付けてあったり、鎧戸が下してあった記憶があります。
懐中電灯の明かりを頼りにお客さま方を踏みつけたりしないように慎重にドアに向かいます。上手くドアにたどり着いて外に出てみるとそこは昼間のように明るく、空には満天の星。星屑をちりばめたというレベルではありません。黒い紙に刷毛で白いペンキを塗ったようだといえば伝わるでしょうか。空には星の無い面積の方が少ないのです。マグライトは家の中では必要でしたが、外では全く用をなさないほど外は明るいのでありました。
高い山の上やいろいろな国の砂漠で”満天の星空”は今までも目にしてきましたが、それから何年も過ぎた今になっても、あの時の星空ほど美しい星空は見たことがありません。まさに息を飲むような光景です。星の光に照らされながら外へ出てきた用事を、これも至福の思いで済ませた後は再びマグライトの明かりを頼りに自分の寝袋へ戻って夢の世界へ戻っていったのでありました。
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