1998年の10月の事だったと思います。
日本を出たのが4月末、パキスタンのカラチをスタートした私のはじめての海外ツーリング。少し予定より早めであり、最終目的地としていたスペインにまだ到着してはいないのですが、過去にはじめての海外旅行先として訪れたイギリスに到着して、その頃の知り合い数人と会ううち、この旅を終わりにする事にしたのでした。
日本からバイクを一時輸出していた私は日本へ車両を送り返す必要があります。日本から送り出す際にも散々苦労したのに、全く知らない国でどうやって通関業者や船会社を探せばよいのかわかりませんが、とにかく港町へ行ってみることにしたのです。
最初に訪れたポーツマスでは”日本への便は扱ってないし、多分出てないよ”という話になり、隣のサウザンプトンへ向かうことにしました。サウザンプトンの港沿いの道路をゆっくり走りながら、目についた輸送業者へ入って聞いてみると幸いにして2軒目で日本へ送ることができるとの話。書類の関連や梱包などを全て依頼したのですがそれでも数日後に再度バイクを持って戻ってくるようにと言われました。
旅の終わりに近づいて、もはや資金も残りわずかになっている私としてはサウザンプトンでの滞在にあまりお金をかけたくありません。宿泊代はB&Bなどで安く済ませても、ヨーロッパは食事代が結構かかります。ガソリンストーブやコッフェルを持っている私としてはできればキャンプ場に泊まって自炊したいところ。バックパックの中にはドイツで1kg購入したジャガイモがまだ残っているので、これを食べながら数日滞在という作戦です。
実はヨーロッパ大陸からイギリスへ渡った途端にバイクに対する人々の反応が悪くなり、キャンプ場でも宿泊を断られることが複数回。理由を尋ねると”バイクは音がうるさいから他のお客さんからクレームが出る”との事。”君のバイクはうるさいわけじゃないけれど、1台入れると、他も入れなければならなくなるから断らざるをえない。”という話。バイクで旅していると聞いたレセプションの女性がアクティビティの無料券をこっそりくれたドイツのキャンプ場とは大違いです。
サウザンプトンでロードマップを広げてみると、近くに国立公園があります。ここでキャンプ場を探すことにしたのですが、ここでもやはり、バイクは断られてしまいました。少し先に行けば”モーターサイクリストキャンプ”というのがある事を教えてもらった私はそちらへ。一般の人達のキャンプ場とは森を挟んで反対側にひっそりと存在するモーターサイクリストキャンプに居を定めたのでした。
ヨーロッパのキャンプ場にはスーパーマーケットが併設されていたり、パブがあったりするところも多いですし、少なくともシャワールームくらいはあるものですが、ここには簡易トイレが2棟、そして炊事用と思われる水道の蛇口がむき出しで外に設置されているだけでした。季節外れなのか、私が到着したときには私一人。放し飼いにされていると思しき馬が2頭、のんびり仲良く草を喰んでいます。
夕方になると地元のライダーと思われる数台のバイクが大きな爆音を響かせながらキャンプ場へ到着。大きな音でエンジンを空ぶかしさせたり、飲み終わったビール瓶を森へ放り込んで、”ガシャン”と割れる音にはしゃいだり、少しガラの悪い連中です。なるほど、バイク乗りがキャンプ場に入れてもらえないのも納得です。
彼らのうちの数人は1人でキャンプしている私に興味をもったのかビールを飲みながら近づいてきたのですが料理の真っ最中の私が顔を上げた途端、アジア人であることに気がついて戸惑った様子になり、踵を返して仲間のところへ戻っていきました。私もあえて彼らと交流することもなく、夜中まで大騒ぎしている声を聞きながら眠りについたのでした。
10月のヨーロッパの気温は低く、バイクで走っているときも天気が悪いとウインターグローブやオーバーパンツを着用する位です。ここで問題なのはこのキャンプ場にはシャワーが無い事です。
翌朝、お湯を沸かして紅茶を飲み、食パンにハムとチーズを挟んでサンドイッチをつくりながら、”髪くらいは洗いたいなぁ”と考えました。水道はあるので歯磨きがてら石鹸を持っていって顔と髪だけ洗おうと思いたち、洗面道具を手にあるき始めたところへ昨夜大騒ぎしていた地元のライダーのうち二人が意を決したように話しかけてきました。私は歯磨きの準備をしながらお決まりの”日本から来た””パキスタンから走りはじめて半年旅している”みたいな会話を交わすのですが、彼らはあまり旅には興味がない様子でもあり、私も終着点へ来たちょっとした憂鬱な気分もあっていつものようには盛り上がれず、会話も途切れてしまいます。
炊事用の水道の蛇口の高さに合わせて膝をついて髪を洗い始めた私を見て会話を切り上げて仲間のところへ帰っていきました。
設備はあまり上等ではありませんが、このキャンプ場、人があまりいないので自然をダイレクトに感じることができます。私がニンジンやジャガイモを料理していると放し飼いの馬が近寄ってきて湯気の立っているコッフェルにヌッと顔を近づけて驚かされる事もありましたし、キャンプグラウンドになっている草地は森に囲まれていてその中にはちょっとしたトレールをぶらぶら散歩したりしながらツーリング終盤戦を過ごしたのでした。
ある夜の事、いつものようにテントで眠っていると枕元で何かを齧るような音で目を覚ましました。夜は冷え込みも厳しくてシュラフから出たくない私。手を伸ばして枕元のテントをバンバンと叩いてみるとしばらく音が収まるのですがそのうちまた聞こえてきます。見の危険を感じるほどではないのでそのままウトウト眠ってしまったのですが朝になって見てみると枕元に置いた食パンをリスが齧りに来ていたようでテントに大穴が空いていました。もちろん食パンも齧られて、空いた穴から入った夜露で濡れてしまっています。
その日からの朝食はリスの食べ残しの食パンとなりましたが、これを食べ終わる頃にはサウザンプトンでの作業は終了。風通しの良くなったテントはバイクと共に日本へお繰り返して私はロンドンへの鉄道の旅、そして日本への航空機の旅へと旅立ったのでした。
▼業務連絡▼
第3回新装/旅行好きの夕べ募集中
美味しい食事を楽しみながら他の旅人との交流と旅の情報交換をしませんか。次の旅に思いを馳せようではありませんか。
日時 3月10日(金)午後19時~21時30分
場所 東京 四谷 サロンガイヤール
会費 3,500円
詳しくは下記ページから。
http://www.bekkoame.ne.jp/i/eandg/event/yube.html
日本を出たのが4月末、パキスタンのカラチをスタートした私のはじめての海外ツーリング。少し予定より早めであり、最終目的地としていたスペインにまだ到着してはいないのですが、過去にはじめての海外旅行先として訪れたイギリスに到着して、その頃の知り合い数人と会ううち、この旅を終わりにする事にしたのでした。
日本からバイクを一時輸出していた私は日本へ車両を送り返す必要があります。日本から送り出す際にも散々苦労したのに、全く知らない国でどうやって通関業者や船会社を探せばよいのかわかりませんが、とにかく港町へ行ってみることにしたのです。
最初に訪れたポーツマスでは”日本への便は扱ってないし、多分出てないよ”という話になり、隣のサウザンプトンへ向かうことにしました。サウザンプトンの港沿いの道路をゆっくり走りながら、目についた輸送業者へ入って聞いてみると幸いにして2軒目で日本へ送ることができるとの話。書類の関連や梱包などを全て依頼したのですがそれでも数日後に再度バイクを持って戻ってくるようにと言われました。
旅の終わりに近づいて、もはや資金も残りわずかになっている私としてはサウザンプトンでの滞在にあまりお金をかけたくありません。宿泊代はB&Bなどで安く済ませても、ヨーロッパは食事代が結構かかります。ガソリンストーブやコッフェルを持っている私としてはできればキャンプ場に泊まって自炊したいところ。バックパックの中にはドイツで1kg購入したジャガイモがまだ残っているので、これを食べながら数日滞在という作戦です。
実はヨーロッパ大陸からイギリスへ渡った途端にバイクに対する人々の反応が悪くなり、キャンプ場でも宿泊を断られることが複数回。理由を尋ねると”バイクは音がうるさいから他のお客さんからクレームが出る”との事。”君のバイクはうるさいわけじゃないけれど、1台入れると、他も入れなければならなくなるから断らざるをえない。”という話。バイクで旅していると聞いたレセプションの女性がアクティビティの無料券をこっそりくれたドイツのキャンプ場とは大違いです。
サウザンプトンでロードマップを広げてみると、近くに国立公園があります。ここでキャンプ場を探すことにしたのですが、ここでもやはり、バイクは断られてしまいました。少し先に行けば”モーターサイクリストキャンプ”というのがある事を教えてもらった私はそちらへ。一般の人達のキャンプ場とは森を挟んで反対側にひっそりと存在するモーターサイクリストキャンプに居を定めたのでした。
ヨーロッパのキャンプ場にはスーパーマーケットが併設されていたり、パブがあったりするところも多いですし、少なくともシャワールームくらいはあるものですが、ここには簡易トイレが2棟、そして炊事用と思われる水道の蛇口がむき出しで外に設置されているだけでした。季節外れなのか、私が到着したときには私一人。放し飼いにされていると思しき馬が2頭、のんびり仲良く草を喰んでいます。
夕方になると地元のライダーと思われる数台のバイクが大きな爆音を響かせながらキャンプ場へ到着。大きな音でエンジンを空ぶかしさせたり、飲み終わったビール瓶を森へ放り込んで、”ガシャン”と割れる音にはしゃいだり、少しガラの悪い連中です。なるほど、バイク乗りがキャンプ場に入れてもらえないのも納得です。
彼らのうちの数人は1人でキャンプしている私に興味をもったのかビールを飲みながら近づいてきたのですが料理の真っ最中の私が顔を上げた途端、アジア人であることに気がついて戸惑った様子になり、踵を返して仲間のところへ戻っていきました。私もあえて彼らと交流することもなく、夜中まで大騒ぎしている声を聞きながら眠りについたのでした。
10月のヨーロッパの気温は低く、バイクで走っているときも天気が悪いとウインターグローブやオーバーパンツを着用する位です。ここで問題なのはこのキャンプ場にはシャワーが無い事です。
翌朝、お湯を沸かして紅茶を飲み、食パンにハムとチーズを挟んでサンドイッチをつくりながら、”髪くらいは洗いたいなぁ”と考えました。水道はあるので歯磨きがてら石鹸を持っていって顔と髪だけ洗おうと思いたち、洗面道具を手にあるき始めたところへ昨夜大騒ぎしていた地元のライダーのうち二人が意を決したように話しかけてきました。私は歯磨きの準備をしながらお決まりの”日本から来た””パキスタンから走りはじめて半年旅している”みたいな会話を交わすのですが、彼らはあまり旅には興味がない様子でもあり、私も終着点へ来たちょっとした憂鬱な気分もあっていつものようには盛り上がれず、会話も途切れてしまいます。
炊事用の水道の蛇口の高さに合わせて膝をついて髪を洗い始めた私を見て会話を切り上げて仲間のところへ帰っていきました。
設備はあまり上等ではありませんが、このキャンプ場、人があまりいないので自然をダイレクトに感じることができます。私がニンジンやジャガイモを料理していると放し飼いの馬が近寄ってきて湯気の立っているコッフェルにヌッと顔を近づけて驚かされる事もありましたし、キャンプグラウンドになっている草地は森に囲まれていてその中にはちょっとしたトレールをぶらぶら散歩したりしながらツーリング終盤戦を過ごしたのでした。
ある夜の事、いつものようにテントで眠っていると枕元で何かを齧るような音で目を覚ましました。夜は冷え込みも厳しくてシュラフから出たくない私。手を伸ばして枕元のテントをバンバンと叩いてみるとしばらく音が収まるのですがそのうちまた聞こえてきます。見の危険を感じるほどではないのでそのままウトウト眠ってしまったのですが朝になって見てみると枕元に置いた食パンをリスが齧りに来ていたようでテントに大穴が空いていました。もちろん食パンも齧られて、空いた穴から入った夜露で濡れてしまっています。
その日からの朝食はリスの食べ残しの食パンとなりましたが、これを食べ終わる頃にはサウザンプトンでの作業は終了。風通しの良くなったテントはバイクと共に日本へお繰り返して私はロンドンへの鉄道の旅、そして日本への航空機の旅へと旅立ったのでした。
▼業務連絡▼
第3回新装/旅行好きの夕べ募集中
美味しい食事を楽しみながら他の旅人との交流と旅の情報交換をしませんか。次の旅に思いを馳せようではありませんか。
日時 3月10日(金)午後19時~21時30分
場所 東京 四谷 サロンガイヤール
会費 3,500円
詳しくは下記ページから。
http://www.bekkoame.ne.jp/i/eandg/event/yube.html
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