旅のウンチク

旅行会社の人間が描く、旅するうえでの役に立つ知識や役に立たない知識など。

屋台のオーラと月餅と。旅で人は変わる

2008年10月24日 | 旅の風景
以前、初めての一人旅がタイへの旅行であったことを書きましたが、そのときのお話をまた書いてみましょう。

さて、ガイドブックに頭を突っ込むようにして情報を拾いながら、私はどうやら空港からホアラムポーン駅周辺のチャイナタウンへ辿り着いたのでした。時間はもう夜になっていて、周囲は暗くなっています。そして、熱帯のバンコクでは少し涼しくなったこの時間頃からむしろ街は活気付きます。

安宿に荷物を置いた私は食事を済ませようと町に出かけてみたのです。小さな通りには歩行も困難なほど屋台が軒を並べ、独特の香辛料の香りを振りまいています。屋台のおじさんはランニングシャツ姿、汗だくで鍋の中のものをかき回したり、うどんを茹でたりしています。

 その風景、雑踏と喧騒は、私が子供の頃に見た神社の縁日の夜店と似ているといえば似ているのですが、売られている物がリンゴ飴などとは違って日常生活に密着したものであるためか、屋台の店主も、屋台で食事をする客も独特のオーラを放っているのです。

 何軒もの屋台を見て歩きながら、私はその独特のオーラの中に自らの身をもぐりこませるだけのエネルギーを呼び起こす事ができないでいました。バンコクの町中に食べ物が溢れているのにもかかわらず、どうしても食事をすることが出来ないのです。

 歩けば歩くほど空腹は募ります。目の前に様々な料理が並んで、美味しそうな匂いを放っているわけですから、気が遠くなりそうです。それでも私は屋台の放つオーラにただただ圧倒されるばかりでした。
 
 そんな屋台だらけの街角に、月餅を売っている屋台がありました。ここには客もおらず、店主ももう店じまい直前なのかやる気を感じさせません。私はここに並べられた様々な大きさの月餅に興味をそそられたのではありましたが、ようやく自分でも購入できそうな静かな店を発見して、ここで買った月餅が、その後2日間で口にした唯一の食物となったのでした。

 旅をすると人は成長するのかどうか。それは私にはわかりません。ただ、あの時、屋台のオーラに圧倒されっぱなしだった自分と、現在の自分を比べてみると大きな変化を遂げていることは間違いないと思います。


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