旅のウンチク

旅行会社の人間が描く、旅するうえでの役に立つ知識や役に立たない知識など。

定員オーバーの長距離バス

2009年05月02日 | 旅の風景
その時、グァテマラの旅が終りに近付いた私は帰国便に乗るためにフライトの数日前、アンティグアからグァテマラシティへ向かう事にしたのでした。

"オトロ ノーチェ"と言い続けて何日も延泊してきた安宿を引き払い、何ども出入りしたバスターミナルへ向います。あたりに駐車中のバスのドライバーに順番に"ポル ドンデ?"と声をかけてグアテマラシティ行きのバスを探しあて、バスに乗り込んだらあとは少し退屈な移動の時間。

思えばこの国に到着した時、多数の言語が存在しすぎて、結論、言語力があまり問われないユーラシアとの違いを痛感、スペイン語の必要性を感じて、大学での第2外国語を真面目にやらなかった事を大いに後悔したのでありました。そして非常に必要性が高いゆえに10日ほどの滞在の後には、どうやら移動を確保したり、宿に泊ったりできる程度には言葉を覚えだのですが、時間切れ。その国を去る時がやってきたわけです。

バスは空席だらけのまま時間どおり出発するような贅沢で無駄な運用はなされていません。アンティグアを出る時にはほぼ満席です。私は右側の窓側に席を占めて何となく窓から外を眺めていました。

アンティグアを出て小一時間経った頃でしょうか。バスの進行方向の道路ぎわに大きな荷物を置いて何人かの男達がバスにむかって手を挙げています。バスはその男達を乗せるために停車します。

男達は少し派手な出で立ちです。荷物の類いはどうやら楽器類。そして、彼らがバスを待っていた道路ぎわからは路地が野原を横切って続いていて、そのさきにはちょっとした屋敷があり、屋敷の庭で陽気に踴る人々がバスの中からも見通せます。

どうやら、その屋敷では何かのお祝いでパーティーを開いていて、そこに呼ばれた楽隊が帰る所のようです。

アジアの国でも見慣れた、このバスがバス停じゃない所に停車して人を乗せるシステム、日本でもこの程度の運営があって良いとおもいますが、そのためにはバスが時間どおり来なくても動揺しないだけの精神力を我々ユーザーが身に付けなければなりませんね。

さて、楽器と共に乗り込んで来た楽隊。バスは既に満席なのですから、既に乗っている人々が少しずつ詰めて、座席の肘掛に少し腰掛けられるようにしてあげたり、皆で協力しあってとにかく収容。楽隊の人々も恐縮気味です。そんな時、乗客の何人かが楽隊に話しかけていました。スペイン語は殆ど判らないので、会話を聞き取れたわけではないのですが、”マリアッチ”という言葉が聞こえた事と、その後の流れから、どうやら彼らはマリアッチバンドで、乗客たちが、”何か演奏して”とせがんでいるようです。

楽隊の人々は積み込んだ楽器ケースから楽器を取り出してバスの通路で演奏を始めました。バスのドライバーもニコニコしています。ノリのいい乗客は狭い通路を物ともせず立ち上がって踊りはじめています。私にとっても、退屈なはずだった移動時間が予定外の”生バンド演奏付きバス”に変更されました。それにしてもグァテマラの人達、音楽が大好きです。

何曲かの曲が演奏され、バスの中の盛り上がりも最高調となろうとした頃、窓から外を見ていた私の目にグァテマラシティの入口にあるトーチカと、警察の検問所が見えてきました。

その時です。ドライバーがバスを減速させ、大きな声で客席に呼び掛けました。

一体、何事かと思ったら、先程までご機嫌で演奏していた楽隊が皆、突然、姿勢を低くして澄ました顔で実際には存在しない座席に腰掛けているポーズをとりました。そうです。”エアー椅子”というやつですね。

グァテマラの長距離バス、定員を越えて人を乗せてはいけなかったようです。

検問所を通過して暫くしたら、ドライバーが皆に声をかけます。多分、”もうだいじょうぶだよ”と。

バス停に到着すると、乗客は次々と楽隊の人達に"グラシアス"と声を掛けてそれぞれの目的地へ散っていったのでありました。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿