平成26年4月17日、米国食品医薬品局(FDA)が電動モルセレーターを子宮筋腫に使用することを推奨しないという声明を発表しました。電動モルセレーターは腫瘤を回収するための筒状の刃の付いた器具であり、子宮筋腫を腹腔外へ搬出するために使用されます。小さな切開部位から組織を細かく切って体外に取り除くことができ、低侵襲手術では欠かせないものですが、子宮筋腫が悪性であった場合、悪性細胞が拡散される可能性があるとして、FDAはこの装置を使わないよう勧告しました。その後、ジョンソン・エンド・ジョンソン社は、平成26年8月、この装置の販売中止を決定しました。
通常、子宮筋腫の診断で手術をした場合、大多数は良性ですが、FDAは350例に1例程度(0.3%)に子宮肉腫があるとしています。しかし、私たちが子宮筋腫の診断で手術をした場合に350例に1例もの割合で子宮肉腫に遭遇することはありません。FDAの根拠とするデータ(文献)の診断方法が古いのかもしれません。たとえば、米国では医療費の関係で子宮筋腫の術前にMRI検査をあまりしないようです。私の伝え聞いたところによると、MRI一回で5-10万円くらいするので子宮筋腫に対してMRI検査をすることは少ないようです。(しかも保険でカバーされない場合もあり)
本邦では、子宮筋腫の術前にMRIをしないほうが稀かもしれません。これによって、子宮肉腫などの悪性疾患は、ある程度は術前に診断されることになります。また、日本人には(アフリカ系の女性に比べると)子宮肉腫はあまり多くはないようで、1000-2000人に1人程度と推測されます。
先日、日本産科婦人科内視鏡学会が、今年の5月に緊急で行なったアンケート結果を公表しました。
子宮筋腫の術前診断で手術をした後に、術後病理診断で悪性疾患であると判明したものの割合は、
開腹子宮全摘出術 13/13,448 (0.10%)
腹腔鏡下子宮全摘出術 12/10,679 (0.11%)
開腹子宮筋腫核出術 2/ 5,625 (0.03%)
腹腔鏡下子宮筋腫核出術 4/13,545 (0.03%)
腹腔鏡補助下子宮筋腫核出術 2/ 2,674 (0.07%)
となっています。
このアンケート結果をよく見ると、33例の悪性疾患のうち子宮肉腫は15例となっていますので、実際に子宮肉腫が出るのは、もっと少なくて、子宮全摘術の場合でも1000~2000例に1例以下ではないかと思われます。子宮筋腫核出術で悪性疾患が判明する割合が小さいのは、子宮体癌や子宮頸癌が見つかることはないこと、手術の対象となる年齢層が子宮全摘術より若い人が多いということが関係していると思われます。
では、1000~2000例に1例の割合で子宮肉腫があるということ、子宮や子宮筋腫を細切除去するということ、ということをどのように考え、どのような対策をとるのかということについて考えてみたいと思います。