ラパロスコピストの夢

大阪梅田で子宮内膜症と闘うラパロスコピストのblog
子宮内膜症、子宮筋腫に対する腹腔鏡下手術はどこまで進歩できるか?

はじめにお読みください

健保連大阪中央病院に勤務するラパロスコピスト(腹腔鏡術者)のブログです。婦人科腹腔鏡下手術、子宮内膜症、慢性骨盤痛等の治療を専門としています。

このブログでは腹腔鏡下手術、子宮内膜症、子宮筋腫に関する基本的な事柄については解説していません。まず、下記のウェブサイトをご覧になることをお勧めします。
日本子宮内膜症協会
子宮筋腫・内膜症体験者の会 たんぽぽ

手術を希望される方はこちらをご覧ください。

医療相談、ご質問にはお答えしませんのでご了承ください。

おすすめの本はこちら?ブックス・ラパロスコピスト

今回の発表(日本産科婦人科学会)

2006-04-25 | 腹腔鏡
学会発表してきた。Nさんに応援してもらったので報告します。

全腹腔鏡下子宮全摘術における子宮動脈結紮の有効性について
【目的】大きな子宮に対して腹腔鏡補助下膣式子宮全摘術を行う場合には腹腔鏡下での子宮動脈の結紮が術中出血量の軽減に有効であると報告されている。しかし、全腹腔鏡下子宮全摘術(TLH)におけて基靭帯処理に先行して子宮動脈を結紮するのがどうであるかについての報告はない。そこで今回、大きな子宮筋腫に対するTLHにおける子宮動脈結紮の有効性を検討した。
【方法】平成14年10月から平成17年9月までに当院で施行したTLH160例のうち子宮重量が500g以上であった32例について子宮動脈を結紮したもの(結紮群)18例と結紮しなかったもの(非結紮群)14例の術中出血量について比較検討した。
【成績】子宮重量は結紮群740.4±141.0g、非結紮群は660.6±146.8g、手術時間は結紮群201.3±49.3分、非結紮群149.4±31.7分、術中出血量は結紮群175.2±119.7g、非結紮群275.2±162.4gであり、結紮群では手術時間は延長していたが出血量は有意に少なくなっていた。
【結論】大きな子宮に対してTLHを行う場合には、基靭帯処理に先行して子宮動脈を結紮した方が術中出血量は軽減する。安全にTLHを行うために子宮動脈結紮が有効であると思われた。

正直のところ、自分の中では終わってしまった(結論が出た)ことなのである。しかし、いろいろと質問されたので(発表の時以外も)驚いた。

今回のpaperは残念ながらRCT(randomized controlled trial)ではない。結紮で行くか、非結紮で行くかはMRIや腹腔鏡所見で決めている。頚部筋腫があったり子宮の可動性が悪い場合には子宮動脈を結紮している。つまり、難易度が高い症例は結紮群になっている。だから結紮群では手術時間が延長し、子宮重量も重くなっている。それにもかかわらず、出血量は結紮群が有意に少なくなっているのだ。ということは時間については延長するが、術中出血量は子宮動脈を結紮したほうが少なくなることが期待できるのである。
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明日(4月25日火曜日)は休診です。

2006-04-24 | 大阪日記
第58回日本産科婦人科学会で発表してきます。
明日は代診となっております。今週、私の診察を希望の方は金曜日にお越しください。
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直腸子宮内膜症は切除する必要があるのか? その9

2006-04-18 | 子宮内膜症
前回は直腸穿孔が起こった場合や全層切除、半層切除、癒着剥離などで起こりうるトラブルについて触れた。今回は、腸管切除(いわゆる区域切除、低位前方切除)を施行した場合の合併症について考えてみる。

低位前方切除の合併症として縫合不全、吻合部狭窄、術後腸管穿孔、腹腔内膿瘍、直腸膣瘻などがある。他に、癒着による腸閉塞や排尿障害などもある。腹腔鏡下手術では腸閉塞のリスクは低く、排尿障害はかなり深部の子宮内膜症を切除しない限り起こりにくい(大腸癌の手術じゃないから周りの組織を含めて大きくとるということはないのだ)。

★縫合不全
直腸低位前方切除では直腸からS状結腸の一部を切除しますので肛門側と口側の腸管を器械で吻合する。(端々吻合)円周状に針の出るステープラーを使う。

器械を使うのでトラブルがなさそうに思えるが、縫合不全は起こりうる。直腸癌やS状結腸癌の縫合不全は、報告者によってことなりますが、1~15%くらいである。(かなり異なる。たぶん、定義が多少違うのだろう。)縫合不全は術後1週間以内に起こることが多く、術後2週間後にはほとんど起こらない。

消化器外科医によれば、縫合不全を起こしたからといって全てが再手術→人工肛門造設というわけではなく、保存的に経過観察できるもののほうがずっと多いそうだ。ただし、瘻孔がふさがるまで絶食、中心静脈栄養としなくてはならない。(一ヶ月以上かかることもあるそうだ。)

★吻合部狭窄
吻合部が狭窄を起こして、便の通過性が悪くなってしまうことがある。原因としては吻合部の血行が悪くなってしまうためだろう。吻合部に緊張がかかっていたり、感染を起こしたりすると起こりやすくなるのではないかと思う。

閉塞を起こすほどの狭窄もまれにあるらしい。しかし、狭窄自体はあまり起こらないそうだ。それに、狭窄した場合には機械的に拡張して保存的に治療できることが多いと聞いている。

★腹腔内膿瘍
膿瘍の原因は縫合不全による小さな瘻孔による感染だろうと思われる。普通、手術で留置したドレーン(とくに閉鎖式ドレーン)が効果的であれば保存的に経過観察することができる。
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手術はじまる

2006-04-18 | 大阪日記
先週より大阪中央病院での腹腔鏡下手術がはじまった。
先週が3件、今週は5件の予定である。
することが多くて一日があっという間に過ぎていく。
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腹腔鏡下手術の診療報酬、大幅アップ

2006-04-11 | 腹腔鏡
今年度の診療報酬改正、婦人科腹腔鏡下手術について主なものをみてみる。

子宮全摘術29,300点→38,500点
子宮付属器腫瘍摘出術16,800点→18,600点
子宮筋腫核出術25,300点(変わらず、ただし子宮付属器腫瘍摘出術を併施した場合、
18,600点の100分の50が算定できるようになった。つまり34,600点)
子宮内膜症病巣除去術 17,100→19,100点
直腸切除術 27,000点→42,100点
主なものはアップしている。
ただし、子宮附属器癒着剥離術は若干下がってしまった。(18,300点→17,900点)

子宮全摘術の点数は驚きである。
たとえば、子宮腺筋症と卵巣チョコレート嚢胞で、腹腔鏡下で子宮全摘術と附属器摘出をすると、
38,500+18600/2=47,800点・・・なんと目が点になりそうだ。

開腹による子宮全摘術は17,600点しかない。
細かいところは覚えていないが若干下がったような気がする。
腹腔鏡下手術に関してはディスポ製品込みではあるが、
これだけ点数に差があれば腹腔鏡でやるほうがずっと収益が上がると思う。

結局、腹腔鏡下でできるケースは腹腔鏡でやってくれと言うことだ。
腹腔鏡でできるものを開腹ばかりやってきては収益があがらないようになっていくだろう。
何はともあれ、腹腔鏡下手術の点数が大幅に上がったのは朗報である。

しかし、残念なのは、子宮内膜症病巣切除が19,100点しかないことである。
ダグラス窩閉鎖を開放して深部病巣を切除して3~4時間のオペをしたとしても、
この点数では赤字になりかねない。
(直腸表面を削れば42,100点と大幅アップなのであるが…)

そこで、私の提案である。
子宮内膜症病巣切除術自体は、16,000点くらいでいいと思う。
しかし、ダグラス窩閉鎖開放術を8,000点、
子宮内膜症深部病巣摘出術(焼灼はダメ)を10,000点くらい加算させて欲しい。

そうすれば、フルコースの手術で34,000点となり、
数時間かけても、病院にとってもやりがいのある手術となるだろう。
ハイリスク、ローリターンの手術では誰もやりたがらないし、
病院から儲からない手術は止めてくれと言われかねない。
正当な診療報酬が支払われないのであれば、
子宮内膜症に対する手術は進歩も普及もしないと思う。
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もっと大変?

2006-04-06 | 大阪日記
今週は手術がない。来たばかりなので当たり前だ。
梅田は人が多い。しかも入り組んでいるので、今日はちょっと迷ってしまった。

今週は、相談や受診に関するメールをたくさん頂いたので対応に頭がこんがらがってしまった。

外来については、火、金、土の午前中となりました。
また、変更があるかもしれません。

医療相談や質問のメールは可能であれば受け付けます。
質問や回答は個人情報を削除した上でメルマガやブログ、サイトで紹介することがあります。
(それがイヤなら質問しないでください。)
忙しいときや質問が多数来たときには回答に時間がかかります。
病院の紹介などの質問はご容赦ください。
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大変やで

2006-04-03 | 大阪日記
満員電車での通勤は初体験だ。こんなに歩き回ったこともほとんどない。

今日は初日、辞令交付式のあと、外来の補助と婦人科検診。
正直のところ、はじめての病院は疲れる。なんとなく“ケツの座りが悪い”。
いろいろ大変だろうと思う。

私の目標は、この病院をこの国の代表的な腹腔鏡下手術センターにすることだ。
前の病院では、慢性骨盤痛や子宮内膜症の重症例を手術し続けてきた。
今までどおり、いや、今まで以上の手術ができないのなら、
私は次の展開に出ることを躊躇しないだろう。
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直腸子宮内膜症は切除する必要があるのか? その8

2006-04-02 | 子宮内膜症
前回まで直腸子宮内膜症を切除するメリットについて考えてきた。今度はデメリット、とくに合併症について考えてみる。

子宮内膜症が他の手術と異なる点はダグラス窩、子宮、直腸が癒着していることだ。しかも時にはその癒着は非常に強固で剥離するのが困難なことが多い。癒着剥離中に直腸を傷つけてしまう(直腸損傷)こともある。確実に修復するためには解剖学的な構造がわかるよう癒着剥離しておかなければならない。

もし、癒着剥離と結紮縫合が腹腔鏡下で十分にできないのなら開腹に変更せざるをえないだろう。それだけならまだいいが、大きな損傷を生じたり、解剖学的な構造が全然わからないようであれば、外科医は修復より一時的な人工肛門造設を勧めることもある。

重症子宮内膜症を安全に手術するためには、術前に腸管を十分洗浄させておくこと、繊細な手術操作や癒着剥離、結紮縫合などの高度なテクニックが非常に重要である。

他の合併症としては、術後腸管穿孔がある。術後数日~一週間くらいで起こるらしい。急激な発熱、腹痛で発症するそうだ。小さな穿孔であれば保存的に経過観察することもできるが、緊急手術を施行して一時的に人工肛門を造設しないといけなくなることもある。こうなると命にかかわる合併症となりうる。

原因としては、剥離操作や子宮内膜症の切除後に直腸表面が薄くなっているのに気がつかなかったこと、パワーソース(電気メスなど)を使いすぎて直腸表面に熱損傷が起こってしまったのを放置したということが挙げられる。直腸表面が薄くなっていても丁寧に縫合修復しておけば普通は問題ないはずだが・・・

とくに剥離が中途半端で終わってしまったとき、しばしば直腸表面を削っていることに気がついていないことがある。剥離できないのでこの辺で止めとこうか?なんてのは意外と危険だったりする。(薄くなっていても気がつかない)

もちろん、繊細で丁寧な手術操作を心がけ、腸管が薄くなってしまったところを確実に修復していれば、簡単に起こるような合併症ではない。
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