先日、40代後半女性の全腹腔鏡下子宮全摘術(Total laparoscopic hysterectomy)をおこなった。この方は40代半ばで開腹による子宮筋腫と子宮腺筋症核出の既往があった。手術所見では、子宮後壁と直腸が予想以上にべったりと癒着しており、ダグラス窩は完全閉塞。一つ間違えば直腸穿孔は免れない状況で慎重に剥離操作を進めていき3時間弱で無事に手術を終了した。出血量は30-40ml程度と少量であった。
術後経過もとくに問題なく結果的には良かったのであるが、ここで私が考えるのは果たして前回の筋腫&腺筋症核出術はいったい何だったのか?ということだ。精神的に子宮を残したいという気持ちは十分理解できるが、妊孕能温存を目的としない子宮温存のメリットとデメリットを考えるべきであろう。
メリットとしては、子宮を残すことで、喪失感を感じることがないということである。
デメリットとしては、①子宮筋腫、子宮腺筋症の再発のリスクを残す。(これは意外と高く、筋腫にしろ、腺筋症にしろ子宮を残す限り完全に取りきれるということはない。)②子宮体癌、子宮頚癌の再発リスクを残す。③HRTを行う場合にエストロジェン単独で行うと子宮体癌のリスクを増してしまう。④大腸癌や子宮癌などの手術や再発による子宮全摘術を将来行うことになった場合、術後癒着によって手術が難しくなるかもしれない。⑤多発性子宮筋腫や大きな子宮筋腫を核出する場合には、腹腔鏡下手術であれ、開腹手術であれ、出血量は多くなり手術そのもののリスクが高い。術後合併症(腸閉塞、多量出血)も多くなる。
子宮温存を希望する方の場合、①、②、③までは十分納得していることだろう。しかし、今回のように④のようなことだってあることを理解してほしい。
40代女性が子宮をどうしても温存したいのであれば、手術よりもまずは子宮動脈塞栓術(UAE)や集束超音波(FUS)などを考える方がよいと思う。少なくとも術後癒着というのはほとんどないはずである。(これらの術後妊娠については、今のところエビデンスはないが、出産例も報告されている。)
伊藤先生もブログで子宮筋腫核出術に対する同様のコメントを載せている。(
1、
2)
もちろん、どのような治療を受けるかは自由である。しかし、同様のケースがあれば、今後は手術のリスクを考えて、私は腹腔鏡下で子宮全摘術を行うのはお断りするかもしれない。