仕事が終わったとき「お疲れさまでした。」、また、他の職員とすれ違うときに「お疲れさまです。」という言葉が頻繁に使われます。しかしながら、私は、この言葉には違和感があります。
ビジネスの世界では、最近は、「ご苦労さま。」は目上から目下へのねぎらいの言葉、「お疲れさまです。」は上司にも使ってよいねぎらいの言葉とされているようです。
グラフ社のきれいな敬語 羞かしい敬語―美しい言葉の人になる7章(草柳大蔵著)の第三章では、下記のような記述があります。(以下、本文)
職場の上司が東京から大阪へ出張して、ややこしい問題を三日がかりで解決し、帰ってきた。社長に報告して職場に帰ってきたとき、いちばん先にその部長の顔を見た入社三年の社員が「部長、お疲れさまでした」と声をかけた。部長は「やあ」と曖昧な返事をしてデスクの方に歩いていったが、ふと、感情を少し損ねたときの表情が浮かんだ。昼食のとき、社員食堂の隅のテーブルに入社三年の社員が課長によばれた。
「注意じゃないんだよ、人間の礼儀として聞いてほしい。目上の人に“お疲れさまでした”は失礼に当たるんだ。」
三年君はびっくりした。いたわりのつもりで掛けた言葉だった。
「それでは“ご苦労さまでした”ならいいのでしょうか。私自身は古臭くて好きな言葉じゃありませんが」
「ご苦労さまもお疲れさまも上司には使わない方がよい。では、なんと言ったらよいか、君に宿題としてあげる」
課長は、それだけ言うと、ポンと肩を叩いて自分のランチを選ぶためにゆっくりと離れていった。
(中略)
「ご苦労さま」「お疲れさま」に代わる言葉を見つけるのがむずかしい。ずいぶんいろいろな人に聞いてみたが、徒労に終わった。文化庁の敬語集の執筆者は「ありがとうございました」「お世話になりました」というお礼の言葉が相手の労苦に対するねぎらいの意志を伝えられるのではないかと記述している。(本文、ここまで)
本書では、「ねぎらう」という行動は本来、目上から目下に行なわれるものであり、言葉の意味からするかぎり言葉をいくら丁寧にしても無駄だということになると述べています。
確かに、これに代わる言葉を見つけるのは難しいのですが、私は「お疲れさまです。」「お疲れさまでした。」を使うのは、少なくともその本来の意味と使う時の状況を考えてからにしたほうがよいと思います。
しかし、私が「お疲れさま」が不適当だと思う理由は、これだけではありません。