今日は久々の論文紹介です
といっても論文の日本語レビューを読んだだけで原著を読んでいないのですが、カンキツの個人育種を行う人にとってはかなりの朗報なんじゃないかと思います。
紹介するのは熊本県農業試験場や佐賀大学が2022年に出した多胚性に関する論文です。
カンキツの交雑育種を効率的に行う方法を開発 | 佐賀大学広報室 (saga-u.ac.jp)
種子繁殖という観点から見るとカンキツは多胚性があることで有名です。
多胚性種子に含まれる種子親のクローンは若干の変異を含むため形質へのわずかな変化をもたらしたい場合非常に有効で、実際に多くの品種を生み出してきまいした。特に温州ミカンでは広く使われておりほとんどの品種がこの方法か枝変わりによって生じています。
一方、交雑育種の観点から見ると交雑胚の獲得確率が悪くなるためどちらかというと嫌悪される性質でした。特に交雑胚は珠心胚(種子親のクローン)と比べ生育が弱いため、胚発生の過程で失われてしまうと考えられていました。そして、それを回避するには果実が十分熟す前に胚を取り出し寒天培地上で育てる(In vitro)ことが必要とされてきました。
この研究では、実際 In Vitroとして胚救出をして育てる場合と、種子が熟したころに土に播種する場合(In Soil)ではどちらの方が効率よく交雑胚を獲得することができるかをマーカーを利用しながら改めて調査がなされています。そして結果として、In Soilでも十分交雑胚の獲得ができるほか、今まで常識として考えられてきた、交雑胚の生育が悪いという話は間違いであり、むしろ生育が良いことを突きつめました。
カンキツの育種では、非常に面白い性質を持っているにもかかわらず多胚性のため種子親として使えない、という場面が多々あります。胚数が少ない場合はたまに単胚が生じるため種子親として使えますがそうでない場合は基本的に無理だろうと今まで決めつけていただけに、今回の発表は非常に興味深いものでした!
マーカーを使えるほどのお金はないため交雑胚の選抜は葉の形状からするしかなく結局難しいことに変わりはありませんが、交雑胚獲得の可能性は十分あるとわかっただけでもありがたい話です。今後は多胚性品種も積極的に利用しながら交配を進められればと思います♪