アブラナ科は自家不和合性(自らの花粉で受粉しない性質)を持つため交配自体は比較的簡単に行えるのですが、それ以降、つまり交配を行って徐々に固定していく過程ではどうしても自家受粉をさせる必要があるため、何らかの方法を使ってこの自家不和合性の性質を取り除く必要があります。いくつか方法は知られているのですが、検索しても具体的な方法が提示されいてるサイトはなく、情報収集に苦労した覚えがあります。大学院に入りだいぶ英論を読むことにも慣れてきたので、それらを参考に、自家不和合性の解除方法として代表的な3つ、①蕾受粉, ②NaCl処理, ③CO₂処理の方法をここにまとめていこうと思います。
そして、まとめるだけだとつまらないので、それら3種の方法を実際に行って比較できればと考えています。新しく「自家不和合性実験」というカテゴリーを作ったので、興味のある方はそちらを時々覗いてください!
まず①の蕾受粉ですが、開花前は自家不和合性が弱いことを利用した手法です。
おそらく3つの中では最も古くから使われている手法なんじゃないかと思います。
非常に単純な方法で特に論文を紹介するまでもないのでここでは論文は特に引用していません。
方法は簡単で、花が開花する2~3日前に花を開き柱頭を露出させそこに花粉をつけて受粉します。
ちょうどよい動画がYoutubeに挙がっていたのでそちらを挙げておきます
((15) Bud pollination procedure in cauliflower. By Pawan sahu (M.Sc-Olericulture) - YouTube)
すでにお気づきかと思いますが問題点は効率が悪いことです
一つ一つ手作業で進めていかないといけないため多くの種子を必要とする場合にはあまり向きません
つぎに、②のCO₂処理についてです。
[1]の論文を見ると様々な自家不和合性打破の手法が載っているのですが、そこで引用されていた論文[2]を参照させていただきます。
この方法は自家受粉した植物体をCO₂条件下に数時間おき、自家受粉を打破する方法です。
だいたい3~5%程のCO₂条件下に5時間ほど植物体を置くとかなり受粉率が上がるそうです。
3~5%のキープはかなり難しそうに思われますが、論文では一時間おきに濃度をチェック&調整している程度なのでそこまで厳密である必要はないと思います。
また蕾受粉をした個体をCO₂条件下に置くとさらに受粉率が上がるそうです。
問題点としてはCO₂の準備やCO₂濃度の調査がやや困難であることが挙げられますが、それさえクリアできればかなり良い方法だと思います
最後に③のNaCl処理についてです。
おそらくこの手法はTao and Yangによって1980年に提唱されたものだと思うのですが、今回はその論文ではなく[3]の論文を参考にさせていただきました。
②と③の手法はいままで見てきたようにそれぞれ欠点を持つのですが、それを克服する形でこの手法が提案されています。
方法は単純で、15g/Lの濃度のNaCl水溶液を受粉の10~15分前に柱頭に対して散布するだけです。
それにより花粉の発芽率なんかが上がるそうです(あまりモリキュラーの話は強くないので詳しくは原著をどうぞ笑)。
上記の2つの方法と違い、わざわざ特別な設備を用意する必要もありませんし、作業もそこまで大変ではありません
以上がアブラナ科の育種で問題になってくる自家不和合性の打破の方法でした。
ちょうどF1の個体で、今年F2を自家受粉で取りたい個体がありますので、今回紹介した方法を試しながらよし悪しを皆様にご報告できたらと思います
参考文献
[1] アブラナ科植物における生殖形質の遺伝学的研究とその育種への展開, 新倉聡, 育種学研究, 9:153-160, 2007
[2] Self-Seed Production by CO2 Gas Treatment in Self-incompatible Cabbage, Tetsu Nakanishi and Kokichi Hinata, Euphytica, 24: 117-120, 1975
[3] Use of Sodium Chloride Solution to Overcome Self-incompatibility in Brassica campestris, Antonio A. Monteiro et. al., HortScience, 23(5): 876-877, 1988
そういえば今日植え替えをしました。
4×7で植えるつもりだったんですが、4×8にしていました笑