<リモート・ボナール序>
「困っただっちゃ、旅に出られないだっちゃ」
「勝手に出ていっちゃだめよ」
「コロナ渦がまだ終息しないだっち、第2派もきてるだっちよ」
「でも、TOTOキャンペーンが始まっただっちゃ」
「とおトゥーじゃないだっちGOトゥーだっち」
「なんかとも歩けば棒にあたるってね。早いもんで昨日、宿泊したお客さん、今朝、領収書が必要とか言ってたわ。でも、手続きが難しそうだって」
「それでもだっち、キャンペーンが見切り発射で来るだっち」
「こっちは医療体制万全なの?」
「レーン村に診療所が1件だっち、そっちの宿屋はだっち、症状の疑いがあったら隔離施設に使うようにするだっち」
「今のところなんとか無事に過ごせてるけどね」
「おいら旅に出たいだっちゃ」
「帰ってこれない旅になっちゃうわよ」
「このあたりの住人には、ちょいTOで買い物券とお食事券を商工会から経費をだしてもらっただっち」
「あとは医療体制ね、心配なのは。フルニエさん、食事は各お部屋で食べてもらってる?」
「各部屋に弁当作って食べてもらってるだっちゃ」
「今のところ、こっそり外出してるお客さんはいないみたいだっちよ」
「夜出歩く可能性もあるからね」
「ステージは出来ないだっちゃか?」
「うーん、できても、2週間前くらい以前から稽古やらリハーサルやらで、みなさんに合宿していただいて体調の具合みないとね・・・」
「そういうことが可能な興行主さんがいたらいいだっち」
「そう言えばポストさん、復帰できたのにね。コロナ渦になってまた自宅生活だね」
「国からは一回ポッキリの給付保障だっちから、なにかやらないと苦しいだっち」
「ドラマ出ればいいだっちゃ」
「そのドラマにも出れないのよ。わかる?ここ以外の人々も何もできない状態なの」
「ゴンベイは荷物届けにくるだっちゃ」
「限られてるの、仕事ができる人たち。とくにステージに立つ人や役者さんとか、エンタメ関係の人たちは、簡単にはいかないの」
「ブラタモリもダメだっちゃか?」
「ブラタモリはあなたがやりたいんでしょ?」
「だれもいない場所でだっち、ひとりカメラ持って撮るのはできるだっちかな・・・」
「おいら、それやるだっちゃ!ひとりブラタモリに行くだっちゃ」
「ダメ!!」
「怖いだっちゃ」
「大丈夫?」
「うーん、もうちょい」
「スカイプはこれでよしっと」
「動画配信だけじゃないの?」
「リモート中継もできるように、打ち合わせとかもあるし」
「で、スカイプ?」
「うん」
「よし!できた」
「おお!!」
「つか、炒め物ばっかしてるじゃん。雨でも降ってるかと思うくらいザーザーしてたね」
「で、なにを始めるわけ?」
「ここでドラマ撮る」
「ひとりで?」
「きみと、役者は多い方がいいでしょ?」
「でも、たったふたりだよ?」
「ほかに誰かいたら頼む、そのためにスカイプも用意したからさ」
「妹は無理無理。わかるでしょ?脱ぐよあの人、全課よ?全課好きよ。マスクはつけるけど・・・」
「あーそうだったか・・・マスク必要だった」
「家の中じゃマスクは別にいいでしょ。ところでどんなドラマにするか、決めてる?」
「まだ」
「やっぱりね」
「やっぱり・・・・パリを舞台にしよう」
「あの、ふざけてるの?」
「機械を準備するので精一杯でさ、今から考え始めるとこ…」
「で、言葉尻で思いついたまま?」
「画家ってどうだろう?」
「画家とままじゃ、ずいぶんと飛躍したねー。まま、って言った瞬間、あ、やば、おっぱいとか言ってきそうと思った」
「絵は見てたんだ」
「何の?」
「いろいろと昔の画家の絵を本で」
「で、誰が印象的だったの?」
「印象?印象って、みんな凄いなーって」
「凄いに決まってるでしょ。つか、印象派とか知ってる?」
「覚えてない」
「わたしがピンときたのはボナール。ボナール・・・誰だっけ、とにかくボナール。はい、ボナールでいきましょう」
「ッたく、気が短いな、じゃ、ルクス君に台本頼もうか?」
「むこうはむこうでやることあるでしょ?鍛冶の仕事は、今忙しんじゃない?」
「台本も自前?」
「できてなんぼでしょ。見切り発射よ。もうなんだろね、すっかりコロナ渦にまかれてるね、わたしたち…」
「やるっきゃないか」
『リモート・ボナール』見物