≪ル・カンネ・ボナール≫
「キャーー!!」
ウゥゥーーーー
「なに!殺人事件か!」
「ナ、ナースステーションに入ったら、死体が」
「ここのナースは、何人いるのですかねー?」
「わたしを含めて3人です」
「1人目はあの方かー?」
「はい」
「あやしいーー」
「二人目はあの方?」
「はい」
「あやしいーー」
「どちらかが犯人だな。まずは遺体を仮装研究所で鑑定、検査してもらおうか」
「仮装研究所になにか」
「こちらが仮装研の女です」
「なにか?」
「遺体を鑑定、検査してもらいたのだが」
「よろしいわ」
「かぶってますねーー」
「仮装包茎ね」
「い、いや、まだ、それだとは断定できませんよ」
「かぶってるじゃん」
「は、はい・‥‥」
「鑑定結果がでましたか?」
「犯人はわかったわー」
「な、なんと!」
「犯人はあなた。あなたが犯人よ」
「あら、どうしてかしら?」
≪引き船のある風景・ボナール≫
「世の中は常にもがもな、なぎさこぐあまの小舟の綱手かなしも‥‥‥いわいる百人一首によい歌はほとんどないのに、この短歌は___あるいは、これだけは、と言ってもよいが、とびぬけてわたしは好きな歌である、‥‥‥と、いきなり、こんなことをもち出して、あなたはとまどうかもしれないわね、‥‥‥≪引き船のある風景≫から、わたしはなんとなく、この短歌を連想する。この歌びきと、人間のいとなみと、その合体を願う心がある。この絵の明るさにも、それとどこかよく似た感想をわたしはおぼえる。わたしの独断的偏見かもしれない。≪ル・カンネ≫の風景では画家は風景の中にいるが、≪引き舟のある風景≫はユニヴァーサルな大きさをもっている」
「で?なにが言いたいの?」
「ほほほほ。つまり、あなた以外、犯人じゃないからよ」
「証拠を立証しなさいよ」
「ほほほほ。証拠。証拠は仮装研で鑑定、検査をしたわ」
「被害者は前の晩からハロウィン用にしにがみの仮装をして寝ていた」
「そして翌日、鎌を持ってあなたを脅かしにナースステーションへ‥‥‥」
「しかし、その鎌が仇となって、あなたに返り討ちをうけたの。”なんで鎌まで持ってきたの!”ってね」
「被害者はあなたの返り討ちにあって、死んだふりをしたの。そしてあなたは!!」
「な、なによ?」
「あなたたちは、ナースのコスプレをしてるだけ!。ナースステーションなんてほんとは嘘。そして決定的な確証は‥‥‥」
「他のコスプレイヤーはみんなリモート。濃厚接触はできない‥‥‥」
「しかし、あなたと被害者だけは濃厚接触が可能な場所にいる‥‥‥」
「被害者はドジだから、自撮り用の撮影で、あなたまで映してた」
「これじゃ計画通りの完全犯罪までいかないわ。サスペンスにもならない。ドキュメンタリーってとこね。そして、あなたが犯人‥‥‥」
「死んだふりしてるだっちゃ」
「く、くくく‥‥‥」
「恐るべし仮装研の女」
「月に代わってお仕置きよーー!」
「カット!!おつかれさまでしたーー」
『リモート・ボナール』浴槽にかがむ裸婦