レンキン

外国の写真と
それとは関係ないぼそぼそ

長いトンネル(22)

2007年03月04日 | 昔の話
 Oの額から上にはさらしのようなものが巻いてある、
と書いたけど、その下は頭蓋骨を外した状態だったらしい。
でもその部分がどうなっていたのか、実はよく覚えていない。
包帯が何で留めてあるとか、その巻き方だとか
私はわりと興味を持って観察する方だと思うけど
Oの頭は見られなかった。怖かったのだ。
だからやたら力をこめて、Oの目ばかり見ていた気がする。
情熱的な見舞いであった。


Oはあまり両親と仲が良くなかったらしい、と
事故が起こってから気が付いた。
飲み物以外の物が口に出来るようになった時
お母さんがOに
溶けかけたアイスクリームを食べさせていた。
Oの嫌いなものの一つに「溶けかけたアイスクリーム」があった。
アイスクリーム自体は大好きなんだけど、
溶けかけのあの感じがすごく嫌で
少し食べては冷凍庫に入れ、再度カチカチに凍らせてから
食べると言っていた。
でも私がそれを言って良いんだろうか、
Oが無表情にアイスを飲み込むのを見て
何だか何も言えずに帰ってきた。

退院したらリハビリのために犬を飼うことにした、と
お母さんが言った。Oは以前から動物を飼いたがっていたから
それはそれは良い刺激になるだろう。
「あの子、どんな犬が飼いたいって言ってた?」
お母さんが聞いたので、私はOが飼いたいと言っていた
犬種を教えておいた。柴犬かコーギー。
生真面目な顔をした犬が好きだったのだ。
反対に嫌いなのが座敷犬なのだが
好きな犬種を伝えておけば良いかなと思い
その事は伝えなかった。


結局飼ったのはシーズーだった。


もしかしたら、嫌いな事を知っていても
Oのお母さんという人は溶けかけたアイスクリームを
食べさせたかもしれないし、シーズーを買ったかもしれない。
でも知っていたらこんな事態の真っ只中、娘の嫌いな事は
出来る限り避けたのではないだろうか。
私は複雑な気持ちでOを見守り、
そして自分の両親と自分の関係も反省した。


私は両親が事故にあった時、
果たして両親の好きな物を食べさせてあげられるだろうか?
そう考えたら全く自信が無かったのだ。